商法第27問
2022年12月16日(金)
問題解説
問題
原告Xは、取締役会設置会社であるY株式会社(以下、「Y社」という。)の株主であるところ、平成17年6月28日開催のY社の株主総会(以下、「本件株主総会」という。)においてAらを取締役に選任する決議(以下、「本件決議」という。)がされ たことに不満を持ち、本件決議の取消しを求めてY社を被告とする訴え(以下、「本件「訴え」という。)を平成17年9月15日に提起した。
Xの言い分は①本件株主総会については他の株主Bに対して招集通知がされていないこと、及び②本件株主総会は取締役会の決議なしに招集されたことである。この場合について、 以下の問いに答えなさい。
(1) Xの言い分①について、どのような問題がありうるか、論じなさい。
(2) Xが、本件訴え提起時には言い分①のみを主張しており、後に、第一審係属中の平成18年1月20日の口頭弁論期日に至って初めて言い分②を主張した場合、どのような問題がありうるか、論じなさい。
(3) 本件訴えが控訴審係属中の平成19年6月27日にAらが任期を満了して退任し同日開催の株主総会において、次期の取締役が選任された場合、どのような問題がありうるか論じなさい。
(4) 本件訴えについて平成18年5月30日に本件決議を取り消す旨の判決が下され、同判決が確定したが、判決確定前の平成18年3月31日に、Aらが構成する取締役会で代表取締役に選任されたAが取締役会の承認を受けたうえで、Y社を代 表してY社所有の不動産をCに売却する契約を締結した。この売買契約について、どのような問題がありうるか、論じなさい。
(東京大学法科大学院 平成20年度)
解答
第1 (1)について
1 株主総会を招集するには、株主に対してその通知を発しなければならない(会社法(以下、法令名省略。)299条1項)。Bに対する通知を欠く本件「株主総会の招集の手続」 には 「法令」 「違反」 があり、本決議には取消事由がある(831条1項1号)。
もっとも、他の株主であるBに対する通知の欠缺を主張する法的利益がXにあるのかが問題となる。
2 決議取消しの訴えの趣旨は個々の株主の利害を超えて、公正な決議を保持する点にある。そして、他の株主に対する招集通知漏れであろうと決議の公正を害するおそれがあることは変わりない。条文上も「株 主」(831条1項柱書)と定めているだけで、特に制限を設けているわけではない。
したがって、この点は肯定的に解すべきである。
3 よって、Xは、他の株主に対する通知が欠けた点についてもそれを取消事由として主張することができる。
第2 (2)について
1 株主総会決議の取消しの訴えは、決議の日から3か月以内になす必要 がある(831条1項柱書)。Xは、決議の日から3か月以内に訴えを提起した上で、3か月経過後に新たに言い分②を追加主張している。このような主張は許されるか。
2 確かに3か月要件は、訴え提起にかかる出訴期間を定めたものであり、訴えの提起自体は決議の日から3か月以内になされているので、特に問題はないかにも思える。民事訴訟法上も時機に後れた攻撃防御方法(同法157条)に当たらない限り、適時に提出すれば足りるとされている (同法156条)。
しかし、法が期間制限を設けたのは、株主総会決議は取り消されるまでは一応有効として取り扱われており、会社の業務もそれを基礎に執行されている以上、瑕疵のある決議の法的効果を早期に安定させる必要があるからである。
そして、理由の追加が無制限になされては、会社はその決議が取り消されるのか否かについて予測を立てることが困難になり、業務執行が不安定になる。そうだとすれば、法は、3か月経過後に新たな理由を追加することも許していないと解すべきである。
3 Xが2の言い分を主張したのは、決議の日から3か月を経過した後であるから、②の主張は許されない。
第3 (3)について
1 Aらが任期満了により退任し、次期の取締役が選任されているのだから、Aらを取締役に選任することを内容とする本件決議を取り消すことについて、訴えの利益が消滅するのではないかという問題がある。
2 訴えの利益とは、訴訟制度を利用して紛争を解決するに値するだけの利益必要性のことをいう。役員選任の総会決議取消しの訴えは、形成訴訟であって、決議を取り消すことによって、取締役の地位を否定することを目的とするものであるから、その目的達成をすることができなくなった場合には、訴えの利益を欠く。
本問では、Aらが退任し、次期の取締役が選任されている以上、特別の事情が存しない限り、株主総会決議を取り消しても、上記目的達成をすることができなくなるのであるから、訴えの利益は消滅すると解する。
3 したがって、特別の事情が存しない限り、本件訴えは利益を欠くものとして、却下される。
第4 (4)について
1 本件決議が取り消されたことにより、本件決議は遡及的に無効になる(839条反対解釈)。
したがって、Aらも初めから取締役ではなかったことになる。 よっ て平成18年3月31日にAはY社を代表する権限はなく、AがY社を代表して締結したCとの売買契約はY社に帰属しないことになる。
2 もっとも、このような結論を貫徹すると、取引の安全にもとる。
(1) そこで、取引当時、有効な代表権を有していたAと取引を行ったCの利益状況が、代表権を有すると認められる名称を付した取締役と取引をした第三者と類似することに鑑み、354条の類推適用によって保護されるべきであると考える。
(2) そして、354条は「善意」とのみ規定しているが、無重過失まで要求すべきである。重過失は悪意と同等に評価すべきだからである。なお、Aは取引当時有効な代表権を有していたのであるから、善意無重過失の対象は、本件決議に取消原因があることである。
3 以上より、Cが善意・無重過失である場合には、Y社は売買契約上の責任を免れない。
以上