民事訴訟法第28問

2022年12月24日(土)

問題解説

問題

XはYに対して、平成24年9月11日に、弁済期を平成26年3月31日として、300万円を貸し付け(以下「債権①」という。)平成25年2月14日にも、弁済期を平成26年6月30日として、200万円を貸し付けた(以下「債権②」という。)。
債権①債権②の双方について、弁済期を過ぎてもYから返済がなかったため、X は、平成27年4月5日ひとまずYに対して債権①の支払を求める訴訟を提起した(以下「本件訴訟」という。)。
本件訴訟において、Yは、債権①について、金銭を借り受けた事実は存在しないと主張していたが、平成27年6月11日に開かれた第3回口頭弁論期日において、Yは、Xに卸したOA機器の代金200万円が未払であるとして、当該売掛金債権(以下「債権③」という。)を自働債権、債権①を受働債権として相殺する旨の相殺の予備的抗弁を提出した。
(1) 本件訴訟において、Yの相殺の抗弁が時機に後れた攻撃防御方法として却下され たとする。この場合に、Yによる、債権③の支払を求める別訴はどのように取り扱 われるか。
(2) (1)と異なり Yの相殺の抗弁は却下されず、裁判所は債権①の存否と並行して債権③の存否についての審理を進めていたところ、Xは、平成27年7月17日に行われた第4回口頭弁論期日において、債権③は既に弁済によって消滅している旨の主張をするとともに、予備的に、債権②によって債権③と相殺するという予備的再抗弁を提出した。
裁判所は、Xの再抗弁をどのように扱うべきか。

解答

第1 小問(1)
1 本件では債権③を自働債権とする相殺の抗弁が、時機に後れた攻撃防御方法(157条1項)として却下されている。相殺は形成権であり、私法上行使されると同時に権利関係に変動が生じ、自働債権と受働債権が対当額において消滅することとなる。
2(1) では、訴訟上相殺の抗弁が主張されたとして、その法的性質をどのように考えるべきか。
これを素直にみれば、実体法上の権利行使の意思表示とその効果の主張としての訴訟行為が併存しているとみることになる。この場合、前者には私法が適用され、後者には訴訟法の規定が適用されることになろう。
(2) しかし、このように考えると、時機に後れた攻撃防御方法として抗弁の提出が却下された場合、実体法上は受働・自働債権が消滅する訴訟法上は、相殺の抗弁はなかったこととなり、受働債権は消減しないものと扱われる。そうなると、実体法上、自己の債権を訴求することができなくなる上に、既判力により、自己の債務(受働債権)も争えなくなる。
そこで、このような結論を避けるため、訴訟上における形成権の行使は、裁判所によって審理判断されることを条件として私法上の効果 が発生する停止条件付行為とみるべきである。 確かに、 条件付きの相殺(民法506条1項参照)・訴訟行為を認めることになるが、これを認めても、相手方の地位を不当に害することはなく、実質的な不都合はないため、 特に問題はない。
とはいえ、当事者が常に実体法上の効果発生を欲しないとは限らな い。当事者がこれを欲するならば、原則どおり、その効果を認めて差し支えない。
(3) 本件では、Yの合理的意思として、相殺の抗弁が却下されたとしても、相殺の効果を欲しているとは考えられないので、私法上、相殺の効果は生じないというべきである。
3 したがって、債権③の支払を求める別訴は、債権③が未だ私法上行使 されていないことを前提に審理されることになる。
第2 小問(2)
1 Xの再抗弁は、訴訟上の相殺をいうものである。
訴訟上の相殺の意思表示は、相殺の意思表示がされたことにより確定的にその効果を生ずるものではなく、裁判所により相殺の判断がされることを条件として実体法上の相殺の効果が生ずるものであるから、相殺の再抗弁を許容すると、仮定の上に仮定が積み重ねられて当事者間の法律関係を不安定にし、いたずらに審理の錯雑を招くことになる。
また、訴訟物である債権以外の債権を有するのであれば、訴えの追加的変更により同債権を当該訴訟において請求するか、又は別訴を提起することにより同債権を行使することが可能である。
加えて、114条2項の規定は判決の理由中の判断に既判力を生じさせる例外的規定であるから、同条項の適用範囲を無制限に拡大することは相当でない。
以上から、訴訟上の相殺の再抗弁は許容すべきでない。
2 したがって、Xの相殺の再抗弁は認められず、裁判所はこれを却下すべきである。
以上

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答案