日本の古墳のことがようやく少し分かった日(2021/03/28)

▼NHK特集番組「誕生 ヤマト王権~いま前方後円墳が語りだす~」を視聴しました。控え目に申し上げても最高でした。これだけで、NHKに年間受信料を支払っている甲斐があるというものです。先週放映された、NHKプロフェッショナル「庵野秀明スペシャル」も大変良かったので繰り返し見ましたが、この題材は、NHKオンデマンドで購入して、私的視聴しながら勉強会行脚をやりたいくらいです。日本人として生まれて生きててめんどくさくてよかったと改めて思いました。

▼日本列島に前方後円墳は、見つかっているだけで4700基もあり、その数は増え続けているといいます。これだけ多くのものをコピペできるのは、本当に日本人独自のインスタ映え大好きな芸風だと思いますが、その最古のモデルとなった巨大古墳が三輪山のふもとにある箸墓古墳(はしはかこふん、奈良県桜井市)です。筆者は残念ながらまだ行ったことがなく、これは最近、近くの纒向遺跡(まきむくいせき)と並んで邪馬台国卑弥呼(ひみこ)の墓と推定されるなど、邪馬台国九州説に固まっている九州出身の筆者からすれば認めがたい側面があり、なかなか足を踏み入れることができなかったのでありますが、やはりこの箸墓古墳というものの古代日本における重要な位置づけについては改めて感嘆したので衡平を期してここに記す次第です。この番組を見てからの筆者は、邪馬台国畿内説に30%くらいかたよった(偏向した)くらいの衝撃をこの番組は与えたのです。ちなみに下記の図は前方後円墳と言いながら鍵穴の形、つまり上下が逆になっているのでそこはご留意いただきたくお願いします。

▼改めて、炭素年代法によって推定された箸墓古墳の建造年月は、西暦紀元250年程度と、卑弥呼が亡くなったとされる年とドンピタ一致します(なお、これは編集の都合でそういう説があるということを前提としていますが、通説はそれよりもっと後、西暦300年くらいとなっています(追記))。そして、こんなに大きな墳丘墓でありながら、埋葬されている人が天皇の娘、という女性であることは匂わせているけれども誰だかわからないように正史の日本書紀においても仕立て上げているのがさらに謎を深くしています。この箸墓古墳という墳丘墓は、円墳に鍵型の前方墳を足したものではなく、当初からこの形で作られたようで、地形を正確にはかると単なる盛り土ではない幾何学的文様が浮かび上がる、吹石で覆われた真っ白な人口造形物であったことがわかってきたのです。こんなインスタ映えするキラキラモニュメントを作った権力は、相当なものであり、一人や数人のマニアが作れる代物ではございません。これを作る技術や意匠は、近くの吉備の祭器の様式や、出雲の吹石意匠、遠く九州伊都国の鏡の出土などなど、日本列島全国の技術と伝統と文化の集大成といったところがぎっしりと詰め込まれており、そしてこの箸墓古墳の完成においては、おそらく日本列島あらゆるところの有力者が集って、東京オリンピックをはるかに凌駕するような壮大な式典祭典が行われ、その式典に出席できる最高ランクの来賓の方々や主催者貴賓のクラスの人達が、あの前方後円墳の前方墳の上に登って、挙行された壮大な式典に参加したのではなかろうか、という「説」を番組が示したときには筆者の興奮度も最高に高まりました。

箸墓古墳調査図

▼まだあります。この箸墓古墳様式の設計図を、そのまま全国の有力者(諸侯)に貸し与えて、いわば箸墓コピペ版墳丘墓がその後ぼこぼこ全国にできたという研究成果が出てきています。そして、箸墓古墳から200年後、世界最大の古墳、大山古墳(仁徳天皇陵)の完成をもって、このヤマト王権の権力は最高度に達します。墳丘墓コピペにより前方後円墳は日本全国的なブームとなり、そして作りに作られた墳丘墓は日本列島全域に4700基、これは見つかっているだけであり、今も現代に生きるマニアな(救えない趣味の)歴史研究家たちによって、新しい古墳が発見されています。これは、インスタ映え(ヴァエ)好きブーム大好き付和雷同、強制力のない自粛のでマスク市中装着率99%を達成してしまう1800年後の現代の我々日本人につながる、壮大かつ厳然とした日本人の「芸風」ではないかと思うのです。シン・エヴァンゲリオンというコンテンツ作品にかけた26年という歳月をものともせず、一人もしくは少数の天才たちが作り出したコンテンツや造形物を、一気に全国展開する芸風、これは日本史を少しでも勉強すれば、例えば鉄砲伝来から長篠の戦いまでや、戦艦受注から日本海海戦の勝利、そして航空機発明から真珠湾攻撃まで、そして長安の都を奈良の平城京や京都の平安京に完コピしてしまうといった築城、築都技術まで全てこの日本人のブーム大好き、コピペ大好きの芸風に彩られているのではないか、と筆者は大胆に夢想するのです。

▼そんな筆者も明らかに、ブームに乗りやすい先人たちのまさに正統なる後輩です。すでに、邪馬台国九州説に凝り固まっていた九州出身の筆者が、半分くらいやっぱり畿内じゃね?と思い始めています。このように、自分というサンプルを見ても、日本人という、手先が器用でとにかく同調圧力の権化、ブームが好きでコピペ大好き、そしてマニアックな技術や日本語といった超絶難解文化を保持し続け、今も薄まるどころか固まらせつづけようとするその日本人の振る舞いが大好きな典型的な日本人だと気付かされるのです。もちろん、墳丘墓を作るという技術の全国拡散は、それだけにとどまらず土木技術や大規模稲作技術といった、要するに暮らしていくための知恵や技術、文化の最新標準形の導入という側面もあったと思います。その象徴としての、箸墓型前方後円墳だったというわけでしょう。

▼前方後円墳に代表される墳丘墓ブームも、一気にしぼみ、今度は「神社」という形態ブームがやってきたようです。こちらは全国に確認されているだけで十万社以上、その一割が菅原道真公ゆかりの天満宮、というのですから、日本人のブーム好きここに極まれり、といったところでしょう。最後に、この箸墓古墳を仰ぎ見る、おそらく日本の最初の「首都」であった纒向遺跡の全体想像図をご紹介して、この長いマニアックな記事の終わりとさせていただきます。西暦250年、日本列島の中心で愛を叫んだ、かつての我々のご先祖様がそのマニアな総力を知力能力体力すべてを傾けて建設してしまった古代都市を御覧ください。かように、そんなめんどくさい日本人でよかった、日本人万歳!という記事でした。それでは今日も頑張ってまいりましょう。

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