刑事訴訟法第1問

問題 2022年6月28日(火)

解答

第1 小問1
1 本問において甲乙の犯した器物損壊罪は、告訴がなければ公訴を提起できない親告罪である(刑法264条)が、被害者である丙丁の告訴は現時点ではなされていない。告訴の未だなされていない親告罪についての捜査ができるのか明文なく問題となる。
2 この点、親告罪における告訴は訴訟条件とされており、捜査の条件ではないから、捜査機関が犯罪ありと思料した場合(189条2項)には告訴がなくても捜査は可能であるのが原則である。また、告訴期間は通常6か月(235条本文)と比較的長く、告訴期間のない犯罪もある(235条但書)こと、さらに告訴権の放棄も認められていないことからすると、告訴がなされた後の捜査開始では、証拠物等が失われていることも多く、公訴を維持することが極めて困難になる。このように、公訴の維持上、告訴と捜査は分けて考えられるべきであるが、無論、一方で、捜査は控訴の提起遂行の準備として犯人の発見保全と証拠の収集確保を目的とする捜査機関の活動であるから、公訴提起がそもそも不可能なときや見込まれないときにまで捜査の必要性は認められない。また、被害者の名誉、プライバシー保護や被害者意思の尊重という親告罪の趣旨に鑑み、告訴なき捜査はできるだけ慎重に行うべきである。そこで、客観的状況から、告訴を得られる見込みがなく公訴提起の可能性がないと認められる親告罪についての犯罪事実は、捜査はできないと解する。
3 本問では、丙丁は告訴をするかどうか迷っているにすぎず、告訴を得られる見込みがないとはいえない。よって、捜査機関は当該器物損壊罪につき捜査できる。
第2 小問2
1 丙に対する恐喝罪
⑴ 本問で丙は乙のみを告訴している。この点、告訴は特定の犯人を識別するものではなく、あくまで犯罪事実の訴追を求める制度であり、また、被害者には犯人特定の権限はないため、告訴の効力は共犯者たる甲にも及ぶのが原則である(238条1項、告訴の主観的不可分の原則)。
⑵ もっとも、恐喝罪は器物損壊罪と異なり、親告罪か否かがが犯人と被害者の人的関係で決定する相対的親告罪である(刑法251条、刑法244条2項)。この点、犯人と被害者との特殊な人的関係に配慮して相対的に申告することになっている法の趣旨に鑑みれば、親族でない共犯者に対する告訴が親族である犯人にも及ぶのは、制度の趣旨に反する。よって、かかる相対的親告罪については、告訴の効力はあくまで犯人と被害者との関係によって個別に定められ、かかる親族者ではない共同正犯者に対する告訴の効力は親族たる共同正犯者には及ばないものと解する。
⑶ 本問でも、丙に乙に対する恐喝罪についての告訴の効力は甲に及ばないため、検察官は恐喝罪を被疑事実として甲を起訴することはできない。
2 丙丁に対する器物損壊罪
⑴ 器物損壊罪は相対的親告罪ではないから、丙の乙に対する器物損壊罪についての告訴は甲に対する関係でも効力が生じ、検察官は、甲による丙所有の花瓶損壊という被疑事実について甲を起訴できるのが原則である。では、検察官は、丙所有の花瓶損壊という被疑事実のみならず、丁所有の壺損壊という被疑事実についても甲を起訴することができるか問題となる。
⑵ この点、丙に対する器物損壊罪と、丁に対する同罪は、甲乙の一個の行為によってなされており、観念的競合となる(刑法54条1項前段)。そして、告訴は犯罪事実について訴追を求める意思表示であるところ、告訴をする場合は訴追の範囲を犯罪事実の一部に限定する意思ではなく、また一罪全体について対象としなければ犯罪事実の全容を明らかにすることはできない。よって、一罪の一部についての告訴の効力は、その全部に及ぶと解する(告訴の客観的不可分の原則)。したがって、丙の告訴は、丙所有の花瓶及び丁所有の壺の損壊という両犯罪事実に及ぶのが原則である。
⑶ しかしながら、本問においては、科刑上一罪となる犯罪がともに親告罪であり、しかも被害者を異にするものである。このような場合、告訴の効力を一罪関係にある他方の一部犯罪事実にまで及ぼすことは、当該被害者の告訴すべき犯罪の特定という意思を無視することになる。そもそも、犯罪被害者の意思を尊重し、被害者自らが告訴をすることができると定めた親告罪の趣旨(230条)によれば、告訴をあえてしない被害者の意思をも尊重し、告訴はあくまで被害者自身が被った犯罪の被害に限定して行われるものと解する。よって、科刑上一罪がともに親告罪であり、しかも被害者を異にしている場合は、告訴の効力は告訴をしていない者の被った犯罪事実には及ばないと解する(告訴の客観的不可分の原則の例外)。
⑷ 以上より、丙の告訴の効力は丙の花瓶が壊された事実にのみ及び、検察官は、丙に対する花瓶の器物損壊罪については起訴できるが、告訴されていない丁に対する壺の同罪については起訴できない。
以上
2,013文字(用紙スペースは最大22字×33行×4枚=2,904文字)

問題解答朗読

◁刑法 第1問

▷民法 第2問