民事訴訟法第26問

2022年12月10日(土)

問題解説

問題

工務店XはYからその自宅の耐震工事を請け負い、工事を完了して引き渡した。ところが、Yが請負代金500万円を支払わないので、XはYに対して請負代金請求訴訟(以下「本件訴訟」という。)を提起した。
Yは、本件訴訟の口頭弁論期日において、「私は確かに請負契約を締結しました。しかし、我が家の耐震強度は十分で耐震工事など必要ないのに、Xが「耐震強度が足りず建築基準法に違反している。」と偽って私に工事を勧めたため、私は工事をしなくてはならないものと信じて契約をしたのです。私は騙されたのですから、請負契約を取り消します。」と主張した。
Yの主張の訴訟法上の意味について説明しなさい。
(慶應義塾大学法科大学院 平成20年度 小間(1))

解答

第1 請負契約の締結を認める旨の陳述について
1 XはYに対し、請負契約に基づいて請負代金を請求している。そして、Yは、請負契約の締結を認める旨の陳述をしているので、かかる陳述が裁判上の自白(179条)に当たることが考えられる。
2 裁判上の自白とは、相手方の主張と一致する、自己に不利益な事実の陳述をいう。
(1)「不利益な」とは、相手方が証明責任を負うことを意味する。請負契約の成立は、原告たるXが証明責任を負う事実であるから、Yにとって「不利益」であるといえる。
(2)ア また、裁判上の自白が成立するのは「事実」についてであって、法律上の主張についてではない。なお「事実」とは、主要事実に限定される。主要事実との関係で証拠と同一レベルに位置づけられる間接事実や補助事実にまで拘束力を発生させると、裁判所の自由 心証(247条)を侵害するからである。
イ 本問では、Yは、請負契約の締結を認めているが、そもそもこれ はXの法律上の主張と一致した陳述であり、定義上、裁判上の自白に当たらない。実質的にも、権利関係の存否に関する判断は裁判所の専権に属するものであるところ、必ずしも法律知識に精通しているとは限らない当事者の主張に拘束力を発生させるべきではないことからも、裁判上の自白とみるべきではない。
ウ しかし、具体的事実の陳述とみることができるならば、裁判上の 自白の成立を認め得る。
そして、Yの陳述は「仕事」の「完成」及び「報酬」の「支払」(民法632条)をしたことという具体的事実を認めたものと解釈することができる。これは、請負代金支払請求の主要事実となる。
3 よって、このようにYの陳述を解釈することができれば、Yによる請負契約の締結を認める旨の陳述は、裁判上の自白としての意味を有する。
第2 請負契約を取り消す旨の陳述について
1 Yは、Xが偽って工事を勧め、これにより誤信して契約を締結したので、請負契約を取り消す旨の陳述をしている。この主張は、詐欺取消し(民法96条1項)を主張するものである。
2 そして、この主張は、請負契約の成立と両立しつつ、その法的効果を消滅させるものであって、Yが証明責任を負うものであるから、抗弁としての意味を有する。
第3 結論
以上より、Yは、裁判上の自白と抗弁を同時に主張しており、制限付き自白としての意味を有する。
以上

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