2日目(2023/12/23)

民法第1問、第2問、第3問

第1問(総則・虚偽表示)
 Aは、Bから取引上の信頼を得るために、A所有の甲土地の名義を貸してほしいと頼まれ、甲土地につき売買予約を仮想してBを所有者とする所有権移転請求権保全の仮登記手続をした。その後、Bは、Aの実印および印鑑証明書を用いて、前記仮登記に基づき自分に対する所有権移転の本登記の手続をした上、Cに甲土地を譲渡した。Cは、登記名義人Bを甲土地の所有者と信じたが、信じたことについて過失があった。この場合において、Aが、Cに対して、甲土地の返還を請求した場合、かかる請求は認められるか。
(解答)
1 Aは、Cに対し、甲土地の所有権(206条)に基づく返還請求をすることが考えられる。請求が認められるためには、①甲土地のA所有、②甲土地のC占有を満たすことが必要である。本件では、Cが甲土地を占有している(②充足)。
2 では、Aに甲土地の所有権が認められるか。
(1) AB間の売買契約は、Bが取引上の信頼を得るために行った仮装の取引であるから、虚偽表示として無効となる(94条1項)。そのため、原則としてAに甲土地の所有権が認められる。
(2)しかし、Cは売買当時、登記名義人Bを甲土地の所有者と信じたので、その取引の安全が害される。そこでCは、「善意の第三者」(94条2項)にあたり、例外的にAB間の売買は有効とならないか。
 ア この点について、同項の趣旨は、虚偽の外観の作出につき真の権利者に帰責性がある場合には、かかる外観を信頼した第三者を保護し、もって取引の安全を図る点にある。そこで、「第三者」とは、虚偽表示の当事者およびその包括承継人以外の者であって、虚偽の外観を基礎として、新たに独立の法律上の利益を有する者をいうと解する。そして、仮装譲受人が、仮装譲渡人の作出した外観を超える外観を作出した場合、仮装譲渡人の帰責性は弱く、第三者保護の要件を厳格にすべきである。そのため、110条の法意に照らし、「善意」といえるためには、虚偽の外観につき善意であるだけでは足らず、無過失であることも必要であると解する。
 イ これを本件についてみる。AとBは、甲土地にについての売買契約を仮想したが、これによりBを甲土地の登記名義人とする所有権移転登記手続が行われた。Cは登記の存在を信頼し、Bから甲土地の所有権を譲り受けた。独立の法律上の利益を有するといえ、「第三者」にあたる。そして、Cは、登記名義人Bを甲土地の所有者と信じ、虚偽の外観につき善意である。しかし、虚偽の外観を知らないことにつき過失があったため、「善意」にはあたらない。
 ウ したがって、Cは「善意の第三者」にあたらない。
(3)よって、Cに甲土地の所有権が移転することはなく、甲土地の所有権はAにある(①充足)。
3 以上より、Aの上記請求は認められる。
以上

第2問(総則・錯誤)
 Aは、BがCに対して有する債務を連帯保証する旨をCと合意し、連帯保証契約を行った。その際、Aは、Bから他にも連帯保証人となる者がいるとの債務者の説明を受けており、AC間の契約においてもその旨が表示され連帯保証契約の内容とされていた。この場合、Aは、Cに対し、連帯保証契約について錯誤による取消しを主張することができるか。
(解答)
1 Aは、Cとの間でBのCに対する債務についての連帯保証契約を締結するにあたり、A以外にも連帯保証人となる者がいるとの説明を受け、かかる事情を基礎として契約を行った。しかし、実際にはそのような者はおらず、他に連帯保証人がいるというAの認識は真実ではなかった。そのため、BがCに対して有する債務を連帯保証するというAの意思表示には、「表意者が法律行為の基礎とした事情についてのその認識が真実に反する錯誤」(95条1項2号)がある。
2 次に、同号に基づく錯誤を主張するためには、「その事情が法律行為の基礎とされているが表示されていた」ことが必要である。Aは、Bから他にも保証人になる者がいるとの説明を受けてCと契約を行い、契約においてその旨が表示されているから「その事情が法律行為の基礎とされていることが表示されていた」といえる。
3 さらに、錯誤を主張するためには、「法律行為の目的及び取引上の社会通年に照らして重要な錯誤」(同項柱書)であることが必要である。
(1) ①本人の認識を基礎として、②一般人なら、その点に錯誤があれば、当該意思表示をしなかったであろう重大な場合をいう。
(2) これを本件についてみる。本件の契約においては、他の連帯保証人がいることが契約の内容となっている。他に保証人がいる場合、その者にも求償権を行使できるという利点がある(465条)。そうだとすれば、かかる点について錯誤があれば、一般人が社会通念上、表示しなかったであろうといえる(①②充足)。
(3) したがって、重要な錯誤があったといえる。
4 よって、Aは、Cに対し、連帯保証契約の取消しを主張できる。
以上

第3問(総則・詐欺)
 Bは、Aを欺罔して農地である甲土地を買い受けたが、農地法条上の許可を停止条件とする所有権移転登記の仮登記を得た上で、Cに当該売買契約上の権利を譲渡して当該仮登記移転の付記登記をした。その後、Aは、は、Bによる詐欺を理由に本件売買契約を取り消した。この場合、Aは、Cに対し甲土地の引渡しを請求できるか。なお、Cは、Bの詐欺を知らず、また知らないことにつき過失がなかったものとする。
(解答)
1 Aが、Cに対し、甲土地の所有権(206条)に基づき、甲土地の引渡しを請求するためには、①Aが甲土地を所有し、②Cが甲土地を占有していることが必要である。本件では、Cの甲土地占有は問題なく認められる(②充足)。
2 では、Aのに甲土地の所有権が認められるか。
(1) AB間の売買契約が詐欺(96条1項)により取り消されたことで、同契約は遡及的に消滅し、甲土地の所有権がAに復帰する。
(2) そうだとしても、Cは、Aによる本件売買契約の取消し前にBから本件土地を譲り受けている。そのため、Bは、「善意でかつ過失がない第三者」(同条3項)にあたり、Aは、本件売買契約の取消しをCに対抗できないのではないか。
 ア この点について、96条3項の「第三者」とは、当事者及びその一般承継人以外の者であって、詐欺による意思表示の取消し前に新たに独立の法律上の利害関係を有するに至った者をいう。
 イ これを本件についてみる。Bは農地法上の許可を停止条件とする所有権移転登記の仮登記を得た上で、AB間の売買契約上の権利をCに譲渡している。そのため、Cは、詐欺による意思表示の取消し前に新たに独立の法律上の利害関係を有するに至ったといえ、「第三者」にあたる。また、Cは、Bの詐欺を知らないから「善意」である。また、善意につき「無過失」である。
 ウ しがたって、Cは、「善意でまつ過失がない第三者」に当たる。
(3) よって、Aは、Cに対し、本件売買契約の取消しをCに対抗できず、その結果、本件において、Aに甲土地の所有権を認めることができない(①不充足)。
3 以上より、Aは、Cに対し、甲土地の引渡しを請求することができない。
以上