1日目(2023/12/22)

行政法第1問、第2問、第3問

行政法第1問(行政立法・通達)
 申請に対する裁量処分を行うかどうかを判断するための審査基準となる通達があるときに、行政庁が、当該通達の定めと異なる内容の処分をすることは許されるか。通達の法的性格を明らかにしながら論じなさい。
(解答)
1 通達は上級行政機関の下級行政機関に対する指揮監督権の一環として発せられ、通達が出された場合、下級行政機関はこれに拘束される。そして、通達は行政規則だから、行政機関外部では拘束力を持たないが、行政機関内部では拘束力を有する。そううだとすれば、一旦通達が発せられた場合、当該通達は行政機関を拘束し、以後、通達と異なる内容の処分をすることは許されないと思える。
2 しかし、いかなる場合にも通達の定めと異なる内容の処分をすることを許さないと、硬直的な運用になりかねず、事案の性質によっては、下級行政庁は不当な判断をせざるをえなくなる場合もある。通達があることによってかえって国民の信頼を失い、妥当でない。そもそも、通達で下級行政庁が拘束される趣旨は、行政府の一体性を確保することで、公正かつ透明な行政運営を確保し、もって国民の権利利益を保護するためにある(行政手続法1条)。そのため、下級行政庁は、事案の性質を考慮し、国民の権利利益が不当に害されると判断したような場合には、通達に従う義務を負わないと考える。
3 したがって、通達があっても、当該通達の定めと異なる内容の処分をすることを許される場合がある。
以上

行政法第2問(行政行為・公定力)3版追加
 甲市の職員である地方公務員Aは、勤務時間内に地方公務員法によって禁止されている政治的行為を行ったとの理由で、甲市長により免職処分を受けた。そこで、Aは、同処分を受けるような懲戒事由は存在しないものとして、公務員として地位確認請求訴訟を提起した。免職処分に無効事由となる瑕疵はないものの、取消原因となる瑕疵がある場合、Aは、免職処分についての取消訴訟の認容判決を得ずに、地位確認請求訴訟において免職処分が違法であるとの主張をすることができるか。
(解答)
1 甲市長が行った免職処分は、Aの公務員という地位を失わせる行政行為であるから、同処分には公定力が生じる。本問において、Aが、免職処分が違法であるとの主張をすることは、かかる公定力に抵触し許されないのではないか。
(1) そもそも、公定力とは、行政行為がたとえ違法であってもの、無効と認められる場合でない限り、権限ある行政庁または裁判所が取り消すまでは、一応、効力のあるものとして、相手方はもちろん他の行政庁、裁判所、相手方以外の第三者もその効力を承認しなければならないという効力をいう。そして、その根拠は、行政目的の早期実現や行政に対する国民の信頼保護の観点から、立法者が取消訴訟という訴訟類型を設け、取消訴訟以外の訴訟類型で処分の有効性を争うことは原則としてできないとした点にある(取消訴訟の排他的管轄)。かかる根拠からすれば、公定力は行政行為を有効なものとして扱う効力があるにすぎず、行政行為を適法なものとして扱う効力まではないといえるから、行政行為についての主張が公定力に抵触するのは、行政行為の効力の有無を主張する場合に限られると解する。
(2) これを本件についてみる。公務員としての地位確認請求における免職処分の違法性に関する主張は、当該免職処分の効力を否定するものであり、その効力の有無を争う主張である。
(3) したがって、Aの主張は公定力に抵触する。
2 よって、Aは、免職処分についての取消訴訟の認容判決を得ずに、地位確認請求訴訟において免職処分が違法であるとの主張をすることができない。
以上

行政法第3問(行政手続法・理由の提示)
 不利益処分について、処分基準(行政手続法12条)が定められ、公にされている場合、理由の提示として、処分基準の適用関係まで摘示することが必要か。
(解答)
1 行政庁が不利益処分をする場合、処分の名あて人に対しその理由を提示する必要がある(行政手続法14条1項)。かかる場合における理由の提示の程度が問題となる。
(1) この点について、同項の趣旨は、処分庁の判断の慎重、合理性を担保してその恣意を抑制するとともに処分の理由を相手方に知らせて不服申し立ての便宜を与えることにある。かかる趣旨から、同項により求められる理由の提示の程度は、処分の根拠条文を示すだけでは足りず、いかなる事実関係につきいかなる法規を適用して当該処分がなされたかを、名あて人がその記載自体から了知できる必要があると解する。
(2) これを本件についてみる。確かに、上記趣旨を徹底すれば、事実関係と処分基準の適用関係まで示す必要があるとも思える。しかし、処分基準が定められ、公にされている場合のように、適用関係が明らかな場合まで、摘示を要求すると、手続が煩雑となり迂遠である。そして、適用関係が客観的に明らかであれば、いかなる事実関係につきいかなる法規を適用して当該処分がなされたかを、名あて人がその記載自体から了知できるといえる。
(3) したがって、かかる場合であれば、同項に反しない。
2 以上より、不利益処分の理由の提示として、処分基準の適用関係まで摘示することは必ずしも必要とはいえない。
以上