刑事訴訟法第20問

2022年11月3日(木)

問題解説

問題

酒気帯び運転をして人身事故を起こし、自らも負傷して失神中の被疑者から、その身体に保有しているアルコールの程度を調べるため、次のものを採取した。この場合の捜査の適法性について論じなさい。
1 呼気
2 血液
(旧司法試験 昭和49年度第2問改題)

解答

第1 問1について
1 承諾なき呼気の採取が、「強制の処分」(197条1項ただし書)に該当するならば、「法律に特別の定め」が必要となり、また、令状主義 (憲法33条、35条)の規制が及ぶこととなる。
「強制の処分」は、強制処分法定主義及び令状主義の画面にわたる規制を及ぼす必要がある処分であるから、重要な権利利益を実質的に制約する処分に限られる。また、処分の相手方の承諾がある場合には、それによる権利・利益の制約は観念し得ず、およそ「強制の処分」には当たり得ないから、個人の明示又は黙示の意思に反することが要求される。
そこで、「強制の処分」とは、個人の明示又は黙示の意思に反し、重要な権利利益を実質的に制約する処分をいうと解する。
呼気は、人間が自然の呼吸に伴って対外に排出されるものにすぎず、 これを採取する際に、対象者の身体に有形力が加えられたり、健康状態に悪影響を及ぼしたりするおそれはない。
したがって、呼気採取は、重要な権利利益に対する実質的な制約は認められないから、「強制の処分」には当たらないと見るべきである。
2 「強制の処分」に当たらない場合であっても、捜査比例の原則が及ぶから、「必要な」(197条1項本文)限度で捜査を行わなければならない。具体的には、必要性、緊急性等をも考慮して、具体的状況のもとで相当と認められる限度において捜査をなし得る。
本間では、酒気帯び運転をして人身事故を起こし、自らも負傷して失神中の被疑者から、その身体に保有しているアルコールの程度を調べるために呼気の採取を行っている。
体内のアルコール濃度は時間経過とともに急速に消失していくおそれがあるから、呼気の採取を行う必要性及び緊急性が高い一方で、上記のように、呼気の採取を行うに当たり、有形力が加えられたり、健康状態に悪影響を及ぼしたりするおそれはない。
したがって、具体的状況のもとで相当であると認めることができる。
3 なお、呼気は、「供述」ではないから、呼気の採取が、憲法38条1項が定める不利益供述の強制の禁止に当たることもない。
4 以上から、呼気の採取は適法である。
第2 問2について
1 承諾なき血液の採取は、「強制の処分」に当たる。採血は身体への傷を伴い、健康状態に障害を及ぼす危険があるから、身体の安全という重要な権利利益を実質的に制約する処分であり、個人の意思にも反する処分だからである。 そこで、まず第1に「法律に特別の定め」が要求される。この点について、これを強制採尿と同様に、捜索差押えの一種である と見る見解がある。
しかし、血液は、人体の一部を構成し体内で恒常的に機能している。また、採血には、専門的知識と経験を必要とするし、採血は体内の物を採取するものであり、身体の外表を見たり触れたりする検証にとどまるものではない。 そこで、血液の採取は鑑定処分(223条1項、225条1項、168条1項) であると見るべきである。そのため、「法律に特別の定め」がないわけではない。
2 しかし、第2に令状が要求される。鑑定処分である以上は、鑑定処分許可状なくして、血液を採取することはできない(225条3項)。
ただし、鑑定処分には直接強制をする条文がなく、これをすることができない(225条は172条を準用しておらず、また、225条4項で準用する168条6項は139条を準用していない)。そこで、 身体検査令状(218条1項後段)も併用するべきである。
したがって、鑑定処分許可状及び身体検査令状なくしてなされた。血液の採取は違法である。
以上

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