民事訴訟法第22問

2022年11月13日(日)

問題解説

解説音声

問題

Xは、世界でも有数の化石マニアであるが、ある日、Y博物館から、X所有の恐竜の化石(以下「本件化石」という。)をレンタルさせてくれないかとの申出を受けた。Xがこれに応じたため、平成22年2月22日、期間を平成22年4月1日から平成25年3月31日とし、毎月20万円の使用料を支払うとの内容の賃貸借契約がXY間で締結された。
Xは、約定どおりに本件化石を引き渡し、Yは、平成22年4月1日から本件化石を展示した。ところが、返還期限である平成25年3月31日が過ぎても、YはXに本件化石を返還しなかった。
そこで、Xは、平成25年5月、Yに対して本件化石の返還請求訴訟を提起した(以下「本件訴え」という。)。これに対して、Yは、訴訟によって博物館の評判が下がることをおそれ、Xに和解を持ちかけた。
その後、裁判外で交渉がなされた結果、①Yは、本件化石を平成25年7月31日にXに返還すること、②YはXに対して80万円を支払うこと、③Xは、本件訴えを取り下げることを内容とする和解契約がXY間で成立した(以下「本件和解契約」という。)。
ところが、Xが一向に訴えを取り下げないため、Yは、Xが訴えを取り下げないことは本件和解契約に反すると主張し、本件和解契約書を証拠として提出した。
審理の結果、本件和解契約の存在が認められるという場合、裁判所は、本件訴えに対してどのような判決をすべきか。

解答

1 本件和解契約の存在が認められる場合、裁判所は、本件訴えに対してどのような判決をすべきか。
Yの主張は、本件和解契約の3において、訴えの取下げの合意がなされているから、本件訴えについて、訴えの取下げの効果が生じるというものであると考えられる。
2(1) そこで、まず、このような訴えの取下げの合意が有効かを検討する。
(2) 審理の方法・訴訟行為の方式要件などに関する事項は、多数の事件を公平に処理するため合目的的に定められているから、両当事者の合意で任意に変更することはできない。
しかし、処分権主義・弁論主義が妥当し、もともと当事者の意思に任されるべき事項がある。このような事項は、できる限り当事者の意思を尊重すべきであるし、尊重しても問題はない。
したがって、そのような事項についての合意はできる限り有効とすべきである。
とはいえ、十分結果の予見できない状況の下でなされる合意については、敗訴と異ならない効果を生じるおそれがある。すなわち、意思の自由を広く保障することが、権利保護の要請と矛盾するおそれは否定できない。
以上から、処分権主義・弁論主義が妥当する事項であり、合意の効果として訴訟上いかなる不利益を受けるかが明確に予測される場合に限り、訴訟契約の効力を認めるべきである。
(3) 訴えの取下げは、訴えの処分に関するものであるから、処分権主義が妥当する事項である。また、訴えの取下げの合意により、契約上、訴えの取下げが強制され、その結果、再訴禁止効(262条)などの不利益を被ることは明確に予測できる。
したがって、訴えの取下げの合意自体は有効である。
3(1) では、原告が訴えの取下げの合意に反してこれを取り下げない場合、いかなる効果を生じるか。
(2) 訟外でなされる契約である以上、私法の規律を受けるべきである。すなわち、訴訟契約は、私法上の契約であり、それにより実体法上の作為・不作為義務を生じさせるにすぎず、それのみによって、訴訟上の効果は生じない。
そうだとすれば、一方当事者が契約に反した訴訟行為をした場合にも、直接訴訟法上の効果は生ぜず、他方当事者は抗弁として合意の存在を主張し、裁判所はこれを認めるとき、訴訟上の一定の措置(訴え却下など)をとるべきこととなる。
(3) 本件では、YからXが訴えを取り下げる旨の本件和解契約の成立が主張されているところ、これが認められたとしても訴えの取下げの効果が生じることにはならない。
もっとも、このような合意の存在が認められる以上、訴訟を続行し、紛争を解決する必要性を欠くといえるから、訴えの利益が失われるというべきである。 したがって、裁判所は、訴え却下の措置をとるべきである。
4 以上より、裁判所は本件訴えに対して訴え却下の判決をすべきである。
以上

問題解答音読

手書き解答