刑事訴訟法第25問

2022年12月7日(水)

問題解説

問題

少年である被疑者Aは、非現住建造物放火罪で逮捕され、警察署留置場で勾留中であ る。Aは、捜査官の取調べに対して一貫して否認している。Aの弁護人Lは、勾留場所を警察署留置場から少年鑑別所に変更するよう準抗告をしていたところ、これが認められた。LはAにいち早く接見し、Aを元気付けようと考え、Aが送致されている地方検察庁庁舎に赴き、検察官Pに対して即時の接見を求めた。これに対し、Pは同庁舎には 接見設備がある部屋が存在しないこと、1時間40分後にAの取調べを控えていることを理由に接見を拒否した。Lは「立会人がいてもかまわない。」と申し出たが、Pはこれに応じなかった。
PがLの申出に応じなかったことの適法性について、Aが成人であって、すでに自白 していた場合と比較しつつ、論じなさい。

解答

第1 前段について
1(1) 検察官PはLの接見の申出 (39条1項) を. Aが送致されてい
地方検察庁庁舎に接見設備がある部屋が存在しないこと等を理由に拒絶している。このように接見設備ある部屋が存在しない場合に庁舎 内での接見の申出を拒むことが許されるか。
(2) 被疑者と弁護人等との接見には、被疑者の逃亡、罪証隠滅及び戒護上の支障の発生の防止の観点からの制約があるから(39条2項及び刑事訴訟規則30条参照)、検察庁の庁舎内において、弁護人等と被疑者との立会人なしの接見を認めても、被疑者の逃亡や罪証隠滅 を防止することができ、戒護上の支障が生じないような設備のある部屋等が存在しない場合には、上記の申出を拒否したとしても、これを違法ということはできない。
(3) 本件では、Aが送致されている地方検察庁庁舎には接見設備がある部屋は存在しないのだから、Pがそのことを理由にLからの接見の申出を拒否したとしても、これを直ちに違法ということはできない。
2(1) もっとも、39条所定の接見を認める余地がなく、その拒否が違法でないとしても、同条の趣旨が接見交通権の行使と被疑者の取調べ等の捜査の必要との合理的な調整を図ろうとするものであることに留意しなければならない。
そこで、検察官が上記設備のある部屋等が存在しないことを理由として接見の申出を拒否したにもかかわらず、弁護人等がなお検察庁の庁舎内における即時の接見を求め、即時に接見をする必要性が認められる場合には、検察官は、いわゆる秘密交通権が十分に保障されないような態様の短時間の接見(面会見)であってもよいかどうかという点につき、弁護人等の意向を確かめ、 弁護人等がそのような面会接 見でも差し支えないとの意向を示したときは、面会接見ができるよう に特別の配慮をすべき義務があると解するのが相当である。
そうすると、検察官が現に被疑者を取調べ中である場合や、間近い 時に取調べをする確実な予定があって弁護人等の申出に沿った接見を認めたのでは取調べが予定どおり開始できなくなるおそれがある場合など、捜査に顕著な支障が認められる場合は格別、上記のような特別の配慮をすることを怠り、何らかの措置をとらなかったときは、検察官の当該不作為は違法になると解すべきである。
(2) 本件では、LはAとの即時の接見を求めている。
また、Aは少年であり、成人に比べ状況把握能力が劣っているだけでなく、否認しているのであるから、黙秘権(198条2項)について十分に教示する必要がある。さらに、勾留場所が警察署留置場から少年鑑別所へ変更になっており、Aにいち早く接見し、元気付けるな どの必要がある。
これらの事情からすれば、LはAと即時に接見をする必要性が認められる。
にもかかわらず、Pは面会接見でよいかLの意向を確かめることすらせず、かえって「立会人がいてもかまわない。」というLの中出に 応じなかったのである。
そして、 本件では取調べは1時間40分後に開始される予定なのであるから、現に被疑者を取調べ中であるとか、間近いときに取調べをする確実な予定があるなど、捜査に顕著な支障が認められる場合ではない。
以上の事情を総合的に考慮すれば、Pの措置は上記配慮義務に反するものであるというべきである。
3 したがって、PがLの申出に応じなかったことは違法である。
第2 後段について
一方、後段では、Aは成人であって、状況把握能力がある程度備わっている上、既に自白をしているのであるから黙秘権について教示する必要性も乏しい。
したがって、即時に接見する必要性が認められない。
よって、 上記配慮義務はなく、Pの措置は上記配慮義務に反するものではない。
以上から、PがLの申出に応じなかったことは違法ではない。
以上

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