商法第26問

2022年12月9日(金)

問題解説

問題

甲は、株券発行会社である乙株式会社(発行済株式総数500万株)の株式1万株を証券会社を通じて購入し、株券を提示して株主名簿の名義書換を請求したが、乙会社は、当該株券につき株主名簿上の株主から盗難届が出されていることを理由に、名義書換を拒絶した。その後、300万株の株式を有する株主が出席した乙会社の株主総会において、200万株の株式を有する株主の賛成で取締役選任の決議がされたが、甲に は、その総会の招集通知が発せられていなかった。乙会社の株主丙は、甲に招集通知が発せられなかったことを理由に、その決議の取消しを求める訴えを提起した。
この請求は認められるか。
(旧司法試験 昭和61年度 第1問 改題)

解答

1(1) まず、丙は甲に対する招集通知漏れを理由として株主総会決議取消訴訟(会社法(以下、法令名省略。)831条)を提起している。このように、他人に対する招集通知漏れを理由として、同訴訟を提起することができるのか。
831条の趣旨は、株主の権利を救済しようとしたものでなく、株 主総会における決議の公正を担保しようとしたものであるから、必ずしも自己の受けた不利益の主張に限定されるべきではない。そして、条文上も「株主」と規定しており、何ら限定していない( 831条1 項柱書)。
したがって、他人に対する招集通知漏れを理由として、同訴訟を提起することができる。
(2) よって、丙も乙会社の株主総会の決議取消しの訴えをなし得る。
2(1) そこで、改めて、乙会社の株主総会に取消事由が存在するか否かを検討する。
上記のように、丙は甲に対する招集通知漏れを理由としているから「招集の手続」の「法令」「違反」(831条1項1号)に該当するかを検討しなければならない。
(2) ここで、甲が「株主」であれば、甲への招集通知の欠缺が招集手続の法令違反に当たることになる(299条1項)。
もっとも、株主名簿に名義を記載しなければ、会社に対して株主資格を対抗することができず(130条1項、2項)、会社は株主名簿に記載された者のみを株主として扱えば免責されるところ、いまだ甲は株式名簿の名義書換えをしていない。そうだとすれば、甲は「株主」に当たらないのが原則である。
(3)ア しかし、名義書換えの未了が、会社側に名義書換えを拒絶する正当な理由のない不当拒絶に起因する場合にまで、かように解するの は妥当でない。
株主名簿制度は会社の側から、真の株主を探求する不便を避け、事務処理上の便宜を図るための制度であるところ、名義書換えを不当に拒絶した会社が、その不利益を実質上の株主(譲受人)に押し付けるのは、信義則に反するから(民法1条2項)、譲受人は名義書換えなくとも会社に株主資格を対抗し得るものと解するのが相当といえるからである。
確かに、本問では、株主名簿上の株主からその所有する株券について盗難届が提出されているが、株券の所持人は適法な権利者と推 定され(131条1項)、また、善意取得の可能性もある(同条2項)。
したがって、乙会社は、甲が無権利者であることを立証できない限り、名義書換未了であっても、甲を株主として扱わなければならない。
ウ 以上より、そのような立証がない限り、甲に招集通知を欠いたことは、「招集の手続が法令に違反」に当たり、決議取消事 由を構成する。
3 もっとも、裁判所は裁量により、 両の請求を棄却することができる(831条2項)。
(1) 本問では、300万株の株式を有する株主が出席をし、200万株を有する株主の賛成で決議が成立している。
これに対して、甲は1万株しか有しておらず、出席した株主の議決権のわずか0.33%にすぎない。
そうだとすれば、これに対して招集通知が漏れたとしても、基本的に決議に影響を及ぼさないことが明らかである。
また、上記持株比率に鑑みれば、上記瑕疵は軽微なものであるといえる。
したがって、「違反する事実が重大でなく、かつ、決議に影響を及ぼさない」と認められる。
(2) よって、丙の請求は認められず、裁判所は請求を棄却すべきである。
以上

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