行政法第27問

2022年12月19日(月)

問題解説

問題

Xは、A県B市内の甲地において公衆浴場の経営を計画し、その許可申請書を同市の保健所に提出したところ、添付書類の一部に不備があるとして係員から補正を求められ たので、当該書類はその日は受理されず、結局書類はXの持ち帰るところとなった。一方、Xの申請から2日後に、甲地から10メートル以内の距離にある乙地を設置場所として同じく公衆浴場の設置を計画していたYも同保健所に営業許可申請書を提出したが、Yの申請書にはとりたてて不備は認められなかったので、当該申請書は即日受理された。ところが、その直後にXの申請書類の補正が不要であることが判明したため、Xの申請は結局Yの申請日のさらに2日後に受理されることとなった。
このような事情において、A県知事Zは、Xの申請を不許可、Yの申請を許可とした。
[問]
1 Xは、自らに対する公衆浴場の不許可の取消訴訟の他に、どのような訴訟(行政事件訴訟法上の抗告訴訟に限る。)を提起するべきか問題となる訴訟要件を明確 にしながら論じなさい。なお、仮の救済については検討する必要がない。
2 Xはどのような主張をすることが考えられるか。また、Xの主張が認められるかにつき論じなさい。
【資料】
○ 公衆浴場法(昭和23年7月12日法律第139号) (抜粋)
第2条 業として公衆浴場を経営しようとする者は、都道府県知事の許可を受けなけれ ばならない。
2 都道府県知事は、公衆浴場の設置の場所若しくはその構造設備が、公衆衛生上不適当であると認めるとき又はその設置の場所が配置の適正を欠くと認めるときは、前項の許可を与えないことができる。(以下略)
3 前項の設置の場所の配置の基準については、都道府県(括弧内略)が条例で、これを定める。
4 (略)
○ A県公衆浴場法施行条例(抜粋)
第2条 公衆浴場の設置場所の配置の基準は、各公衆浴場との最短距離を、250メー トル間隔とする。

解答

第1 提起すべき訴訟について(設問1)
1 Xは、自らが先に申請したのにもかかわらず、Yに営業許可がなされたことから、A県知事Zの行った自らに対する公衆浴場の営業不許可処分の他に、Yに対する営業許可処分の取消しを求めることが考えられる。
訴訟要件のうち、原告適格(行政事件訴訟法(以下、法令名省略)9条)以外には問題がないものと思われる。では、XにはYに対する処分の取消訴訟の原告適格が認められるか。
29条1項の「法律上の利益を有する者」とは、当該処分により自己の権利若しくは法律上保護された利益を侵害され又は必然的に侵害されるおそれのある者をいう。そして、法律上保護された利益とは、不特定多 数者の具体的利益が一般的公益に吸収解消されず、個々人の個別的利益として保護されるような利益をいう。
3 Xが自らを名宛人とする不許可処分の取消しを求める場合は、自己の権利を侵害され又は必然的に侵害されるおそれのある者に当たるから、当然に「法律上の利益を有する者」といえる。
それでは、Yに対する営業許可処分の取消しを求める場合についてもXは「法律上の利益を有する者」といえるか。
Xが侵害される利益は、適正な許可制度の運用によって保護されるべ 営業上の利益である。このような利益が個々人の個別的利益として保 護されているといえるか。
限られた1つ又は少数の枠を争うような競関係においては、一方に対する許可処分は取りも直さず他方に対する不許可処分を意味するという点で 両処分は表裏の関係にある。仮に、一方に対する許可処分が違法であるとして取り消された場合には、他方に対する不許可処分も決定前の白紙の状態に戻る。そのような場合、行政法としては、競願関係にある両申請を改めて比較し、いずれを認めるかどうか、その優劣についての判定をし、決定をなすべきである(33条2項参照)。
そのため、このような事例においては、行政庁の再審査の結果によっては、一方に対する許可を取り消し、他方に対し営業許可を付与することもあり得る。
したがって、競願関係にある一方者の上記利益は、個々人の個別的利益として保護されているといえるから、他方者に対する処分により自己 の権利を必然的に侵害されるおそれのある者に該当する。
4 本件で、Yが公衆浴場設置を予定している乙地はXが計画している甲地から10メートル以内の距離にある。そのため、許可申請にかかる公衆浴場と既設の公衆浴場との距離を原則として250メートル以上に保たなければならないとするA県公衆浴場法施行条例(以下「本件条例」という。)2条のもとでは、XYのうち一方しか営業許可を得ることができず. 両者は競願関係にある。
したがって、Xの上記利益は、個々人の個別的利益として保護されているといえるから、XはYに対する営業許可処分の取消訴訟を提起する「法律上の利益を有する者」に当たる。
以上から、Xには原告適格が認められ、Yに対する営業許可処分の取消訴訟を提起すべきである。
第2 本案における主張について(設問2)
1 Xとしては、先に申請した自分ではなく、後から申請したYに許可がなされた点についてA県知事Zの判断に違法があったと主張することが考えられる。
具体的には、公衆浴場法2条2項は、「······許可を与えないことができる」と定めているところ、これは、原則許可、例外不許可の規定態様であるから、先に適法な申請を行った自分こそが許可を得られるべきであるという主張である。
ではこのようなXの主張は認められるか。
2(1) 公衆浴場法(及びそれを受けた本件条例)による許可制の採用(公 衆浴場法2条1項)及び公衆浴場営業許可の際の適正配置基準(同法2条3項、本件条例2条)は、主として国民保健及び環境衛生という公共の福祉の見地から営業の自由を制限するものである。そして、同規定の趣旨及び原則許可という規定の構造からすれば、許可の申請が所定の許可基準に適合するかぎり、行政庁は、これに対して許可を与えなければならないものと解される。
また、許可の要件を具備した許可申請が適法になされたときは、その時点において、申請者と行政庁との間に許可をなすべき法律関係が成立し、その後になされた第三者の許可申請によって格別の影響を受けるべきいわれはない。
これらのことに鑑みれば上記許可をめぐって競関係が生じた場合に、各競願者の申請が、いずれも許可基準を満たすものであってそのかぎりでは条件が同一であるときは、行政庁は、その申請の前後により、先願者に許可を与えなければならないと解すべきである(先願主義)。
(2) 次に、申請の前後を判断するに当たって、具体的にどのような基準によるべきであるのかが問題となる。
公衆浴場営業許可の性質及び各申請を公平に取り扱うべき要請からすれば、先順順については、申請の受付や受理などのような行政庁の行為の前後によってこれを定めるべきではなく(行政手続法7条参照)、所定の申請書がこれを受け付ける権限を有する行政庁に提出された時点を基準とすべきである。
本問では、とりたてて不備が認められなかったYが許可申請書を提出して受理されているものの、公衆浴場営業許可申請書を保健所に先に提出したのはXの方であり、行政庁の調認がなければ補正が求められることもなかったので、所定の申請書がこれを受け付ける権限を有する行政庁に提出された時点を基準とすれば、Xが先願者である。
3 以上より、A県知事Zの行った、Xに対する申請不許可処分及びYに対する許可処分は、Xの申請が許可基準に適合している限り、競願関係 における先願主義に反する点で、共に成立上の瑕疵があり、違法な処分といえるから、Xの取消訴訟は認容される。
以上

解説音声

問題解答音読

答案