4日目(2023/12/25)
民事訴訟法第1問、第2問、第3問、第4問
第1問(原告適格)
A及びBが共有する甲土地について、第三者Cに対し、甲土地がA及びBの共有に属することの確認を求める訴えは、Aのが単独で提起することができるか。
(解答)
1 Aは、Cに対し、甲土地がAとBbの共有に属することの確認を求める歌えを提起しようとしている。この訴えが固有必要的共同訴訟、すなわちA及びBが原告当事者として訴えを提起しなければ当事者適格を欠くとして訴えが却下される場合、A及びは当該訴えを単独で提起できない。そこで、本件訴えが固有必要的共同訴訟に当たるか検討する。
(1) この点について、民事訴訟は実体権の実現・処分のプロセスである以上、当事者適格の選別に当たっても実体法条の管理処分権の帰属態様が基準となる。もっとも、当事者適格は訴訟追行権という訴訟上の権能にかかわる問題でもあり、その決定については、紛争解決の実効性、訴訟経済等の諸要請との関係上、訴訟政策的判断が必要不可欠である。そこで、実体法上の管理処分権を基準としつつ、訴訟政策的観点からの調整を加えて当事者適格の有無を判断すべきと解する。
(2) これを本件についてみる。本問訴えの訴訟物は共有関係の確認であり、共有関係そのものは、共有者全員によってのみ処分・分割ができるから、管理処分権は共有者である共同相続人全員に帰属する。また、共有権は共有者全員の有する1個の所有権であるから、共有者全員に手続保障を与える必要がある。
2 よって、本件訴えは、Aが単独で提起することはできない。
以上
第2問(確認の利益)
甲の相続人である乙は、甲の遺言の無効の確認を求めて訴えを提起した。かかる訴えの適法性について論じなさい。
(解答)
1 乙の提起した訴えは確認の訴えであるところ、訴えが適法となるためには確認の利益が認められることが必要である。
(1) そもそも、訴えの利益とは、個々の請求内容について、本案判決による紛争解決の必要性及び実効性を検討するための要件をいう。そして、確認の訴えの対象は給付訴訟と異なり、無限に拡大するおそれがあるから、その対象を認定する必要がある。また、確認判決は給付判決と異なり執行力がないため、確認判決をすることが必要かつ適切な場合に限り認めるべきである。そこで、確認の利益は、①対象選択の適否、②即時確定の利益、③方法選択の適否の3つの観点から判断すべきと解する。
(2) これを本問についてみる。まず、遺言は過去の法律関係を問題とし、訴えの利益を求める対象としては不適切とも思える。しかし、遺言から生じる現在の個別的関係を確定しても紛争の抜本的解決にならず、むしろ、過去の遺言の有効性を確定すれば、現在の紛争を直接かつ抜本的に解決できるので、有効的である。そのため、対象として適切である(①充足)。また、遺言の効力が発生した後なら、将来的にその法律関係が変動することはなく、即時確定の利益も認められる(②充足)、さらに、遺言の内容を争うには確認の訴えによることが適切である(③充足)。
(3) したがって、確認の利益が認められる。
2 よって、上記訴えは適法である。
以上
第3問(二重起訴)
XのYに対する貸金債務不存在確認訴訟の係属中に、Yは、Xに対して、当該貸金の返還を請求することはできるか。
(解答)
1 Yは、Xに対し、別訴を提起して本件貸金の返還を請求することが考えられる。
この訴えが142条に反しないか検討する。
(1) Yの提起した訴えは、Xの訴えで争われている貸金債権と同一の債権を対象とするが、同条の「事件」にあたるか。
ア この点について、同条の趣旨は、被告の応訴の煩、訴訟不経済、矛盾判決の危険による弊害を防止することにある。この趣旨から、「事件」にあたるかは①当事者及び②訴訟物が同一かどうかによって判断する。
イ これを本件についてみる。両訴訟の当事者は原告と被告が変わっただけで同一である(①充足)。そして、債務不存在確認訴訟は給付訴訟の裏返しだから、その訴訟物は同一である。そのため、両訴訟の訴訟物も同一である(②充足)。
ウ したがって、Yの訴えは「事件」にあたる。
(2) よって、Yの上記訴えは上記に反し、許されない。
2 他方、反訴(146条)によれば、同一手続内で審理されるため上記のような弊害はない。そのため、反訴によって当該貸金の返還を請求することはできる。
3 以上より、反訴を提起することによって、Yは、Xに対して、当該貸金の返還を請求することができる。
以上
第4問(弁論主義)
Xが、甲土地の所有権の取得原因として、Aの元所有、Xの父BによるAからの買受け、Bの死亡による相続を主張し、Yが、Aの元所有は認めつつ、その後のXの所有権の取得の経緯を単純否認した。この場合、裁判所が証拠調べの結果に基づいて、Aから甲土地を買い受けたのはBではなくYであることを理由としてXの請求を棄却できるか。
(解答)
1 Xは、甲土地の所有権取得原因として、Aの元所有、Xの父BによるAからの買受け、Bの死亡による相続を主張する。これに対し、YはXの所有権の取得の経緯を単純否認したにすぎない。裁判所は証拠調べの結果から、Aから甲土地を買受けたのはBではなくYであると認定する。このように、当事者の主張に現れない事実を認定することは、弁論主義の第1テーゼに反しないか。
(1) 弁論主義とは、判決の基礎となる証拠や資料の提出を当事者の権能かつ責任ともする原因をいう。その趣旨及び権能は当事者の意思を尊重するとともに不意打ちを防止することにある。裁判所は、この弁論の趣旨及び機能から、当事者の申し出ていない事実を判決の基礎とすることができない(弁論主義第1テーゼ)。
もっとも、手続の安定性、明確性の観点から訴訟の勝敗に直結する主要事実についてのみ弁論主義を及ぼせば十分であること、主要事実との関係で証拠と同様の働きをなす間接事実や補助事実について弁論主義を適用すると裁判官の自由心証を害する恐れがあることから、弁論主義の対象は主要事実に限られると解する。
(2) これを本件についてみる。Yは、Aの元所有を認めるため、争点はAB間の売買とXの相続である。AY間の売買は、AB間の売買との関係で問題となるが、AB間の売買の主要事実はAの申込みとBの承諾であり、AY間売買の事実はAB売買の事実の不存在を推定する間接事実となるにすぎない。
(3) したがって、裁判所が、Aのから甲土地を買い受けたのはBではなくYと認定することは弁論主義第1テーゼに反しない。
2 よって、裁判所が証拠調べの結果に基づいて、Aから甲土地を買い受けたのはBではなくYであることを理由としてXの請求を棄却することはできる。
以上