3日目(2023/12/24)

商法第1問、第2問、第3問

第1問(設立)
 甲と乙とはそれぞれが発起人となって、株式会社(以下、「丙社」という)を設立することにした。設立に際し、甲は所定の期日または期間内に設立時募集株式の払込金額の全額の払込みをしたが、乙は全額の払込みをしなかった。甲が引き受けた設立時発行株式について出資の履行をした財産の化学が定款に記載された設立に際して出資される財産の勝ちまたはその最低額を満たしている場合において、丙社の設立の効力について論じなさい。
(解答)
1 甲と乙は丙社の発起人であるため、設立に際し、設立時発行株式を1株以上引き受ける必要がある(25条2項)。しかし、乙は所定の期日または期間内に払込金額の全額の払込みをしておらず、株主となる権利を失っている(36条3項)。そのため、丙社の設立には25条2項違反の瑕疵がある。
2 この場合、丙社の設立は有効となるか。会社の設立については設立無効の訴えによって争い得るところ(828条1項1号)、かかる訴えの無効事由につき明文の規定がない。そのため、いかなる事由が無効事由にあたるかが問題となる。
(1) この点について、会社がいったん有効に成立したとの外観を有するに至ったものを無効にすると、会社をめぐる法律関係が混乱することにかんがみ、無効の主張や効果を制限することで法的安定性を確保するという828条1項の趣旨から、無効事由は重大な瑕疵に限られると解する。
(2) これを本件についてみる。発起人が1株も株式を引き受けないと、設立事務を誠実に遂行せず、会社運営が健全に行われないおそれがある。そのため、かかる瑕疵は重大な瑕疵といえる。
(3) したがって、無効事由にあたる。
3 よって、会社設立の日から2年以内(同項1号)に同訴えを提起することにより、丙社の設立は無効となる。
以上

第2問(株式の譲渡)
 会社と従業員との間で、従業員の退職に際してその有する当該会社の譲渡制限株式を会社の指定する者に譲渡する旨の合意をした。この合意は有効か。
(解答)
1 本件合意は従業員が取得した株式を会社の指定する者に譲渡することを強制するものであり、株式譲渡自由の原則(127条)に反し無効とならないか。
(1) この点について、同条が株式の譲渡自由性について規定した趣旨は、株主に投下資本回収の手段を与える点にある。そうであるにもかかわらず、株式譲渡を制限する旨の契約を認めれば、会社が自身の強力な社会的地位を利用して、株式の投下資本回収を不当に妨げる恐れがある。
 そこで、かかる契約は公序良俗(民法90条)に反し、原則として無効となる。ただし、例外的に契約内容が株主の投下資本の回収を不当に妨げない合理的なものである場合には例外的に有効になると解する。
(2) これを本件についてみる。会社法は、譲渡人の相手方洗濯の利益を重視しているとはいえず(140条1項・4項)、会社による株式の取得も一定の要件のもとに許容される(156条、164条)。そして、退職時に売渡しを強制することは、投下資本回収の機会を提供することになるため、株主の利益になる。
(3) したがって、本件合意の内容は株主の投下資本回収を不当に妨げない合理的なものであるといえる。
2 よって、本件合意は有効である。
以上

第3問(株式の譲渡)
 取締役会設置会社であるY社は、その発行する全部の株式の内容として譲渡による当該株式の取得について会社の承認を要すること(以下、「譲渡制限の定め」という)を定めていた。Xは、Y社の株式を有する株主名簿上の株主であったが、その株式すべて(以下、「本件株式」という)を平成22年3月10日にAに譲渡した(以下、「本件譲渡」という)。本件譲渡について、XもAも、Aによる取得の請求をせず、本件株式に係る株主名簿の名義書換請求はされなかった。しかし、本件譲渡の事実をAから聞いたY社の代表取締役Bは、平成22年6月に行われた定時株主総会における剰余金配当決議に基づき、本件株式について配当すべき剰余金(以下、「本件剰余金」という)をAに支払った。この場合、Xは、Y社に対して本件剰余金の支払いを求めることができるか。
(解答)
1 本件株式が譲渡制限株式(107条1項1号)であるが、本件譲渡につきY社の承諾はない。そこで、Xとしては、本件譲渡は無効として、Y社に対して本件剰余金の支払いを求めることが考えられる(105条1項1号)。
2 これに対し、Y社は、本件譲渡が有効であるとして、Xの請求を拒めないか。
(1) そもそも、株主の投下資本回収のため、株式譲渡は原則として自由である(127条)。それにも関わらず、107条1項1号が定款による株式の譲渡制限を認めた趣旨は、会社にとって好ましくない者が株主となることを防ぎ、会社運営の安定を図る点にある。そうだとすれば、譲渡制限違反の株式譲渡は会社に対して効力が生じないとすれば足り、譲渡当事者間で無効とする必要はない。そのため、会社の承諾を得ずにされた譲渡制限株式の譲渡は会社との関係では無効であるが、当事者間においては有効であると解する。
(2) これを本件についてみる。本件譲渡については、Y社の承諾なく行われている。
(3) したがって、本件譲渡はY社との関係では無効となる。
3 そうだとしても、本件譲渡はXA間で有効となる以上、Xは本件譲渡により株主としての地位を失ったとして、Y社はXからの請求を拒めないか。
(1) この点について、株式譲渡が無効になった場合、譲渡人を株主として扱わないと株主権を講師する地位に空白が生じる。そこで、会社は譲渡人を株主として取り扱わなければならないと解する。
(2) これを本件についてみる。本件譲渡が無効である以上、甲社はXを株主として扱わなければならない。
(3) したがって、Y社は、Xの請求を拒むことができない。
4 よって、Xは、Y社に対して本件剰余金の支払いを求めることができる。
以上