商法第9問

2022年8月15日(月)

問題

Aが株式会社の発起人として会社の設立中にした行為に関して、次の問に答えよ。
(1)Aは、Bとの間で、原材料を会社の成立後に譲り受ける契約を締結した。会社の成立後、会社の代表取締役に就任したAに当該原材料を引き渡したBは、会社に対しその代金の支払を請求することができるか。逆に、会社は、Bに対し当該原材料の引渡しを請求することができるか。
(2)Aは、Cに対し会社の宣伝広告をすることを依頼し、これを承諾したCは、近く会社が成立し営業活動を開始する旨の広告を行った。Cは、会社の成立後、会社に対しその報酬を請求することができるか。この請求ができないとした場合には、Cは、だれに対しどのような請求をすることができるか。
(旧司法試験 平成7年度 第1問)

解答

第1 小間1について
1 前段について
(1) Aが設立中の会社の発起人としてBとの間で締結した原材料を会社の成立後に譲り受ける契約(以下「本件契約1」という。)は、会社の成立を条件として会社成立前から存在する特定の財産を譲り受けるものであるから財産引受けに当たる。そのため、定款に記載(会社法 (以下、法令名省略。)28条2号)されれば有効であり、その場合、Bは会社に対し代金支払請求することができ、会社側はBに対し原材料の引渡請求をすることができる。
(2)これに対して、定款に記載がないなど法定要件を充足しない場合は無効(28条柱書)であり、Bは会社に対し代金支払請求することができない。ただし、会社が無効主張をすることが信義則(民法1条2項に反する場合は別論である。
2 後段について
では、定款に記載のない財産引受けを成立後の会社が追認し、当該原材料の引渡しを請求することができるか。
(1)まず、かかる追認が認められるためには、本件契約1の効果が成立後の会社に帰属し得ることが必要である。
(2)そこで、設立中の会社の発起人が行った行為が設立後の会社に帰属することがあり得るか、設立中の会社と設立後の会社との関係が問題となるが、上記のように法は要件を満たした場合に、設立中の会社が行った行為の効果が設立後の会社に帰属することを承認している。また、実質的にみても、「会社は・・・・・・設立の登記をすることによっ て成立」する(49条)が、それ以前にも権利能力なき社団たる設立中の会社として社会的に実在する。そして、かかる設立中の会社が成長発展し、権利能力を付与されて完全な会社となるのであるから、設立中の会社と設立した会社とは実質的には同一であると考えることができる。したがって、本件契約1の効果は成立後の会社に帰属し得る。
(3)もっとも、それは発起人の権限の範囲内でなされた行為の効力に限られる。そして、設立中の会社は、会社の設立を目的とするから、発起人は、会社設立のために直接必要な行為についてはもとより、設立のために事実上必要な行為まで可能である。この点について、開業準備行為としての財産引受けは、設立のために事実上必要な行為ですらなく、本来発起人の権限の範囲外の行為で ある。そうだとすれば、28条2号は開業準備行為である財産引受けについて、定款への記載等を要件として例外的に発起人の権限を認めたものである。 そのため、定款に記載がない場合には、追認も認めるべきではない。法が定款に記載のない財産引受けを無効と定めたのは、広く株主・債権者等の会社の利害関係人の保護を目的とするものであることからしても、そのように解すべきである。
(4)よって、定款に記載のない財産引受けを成立後の会社が追認し、当該原材料の引渡しを請求することはできない。
第2 小間2について
1 AC間の宣伝広告依頼契約(以下「本件契約2」という。)は、近く会社が成立し、営業活動を開始する旨を内容とするものであるから、開業準備行為に当たる。開業準備行為については、設立のため、事実上必要な行為にも当たらないから、発起人の権限の範囲外である。また、財産引受けと異なり、 開業準備行為に関して会社法に定めがないから、無効とせざるを得ない。したがって、Cは、会社の成立後、会社に対し、その報酬を請求することはできない。
2 そこで、CはAに対して責任追及することが考えられる。本件契約2は発起人Aが設立中の会社の機関として行った行為であるから本来その効果がAに帰属することはないが、発起人のなした行為は一種の無権代理と構成できることから、民法117条を類推適用し、A は無権代理人としての責任を負うと解すべきである。したがって、Cが、当該契約締結が法定要件を欠くために、発起人の権限外の行為であることにつき善意・無過失である場合には、Aに対して報酬の全額請求、又は損害賠償請求をすることができる(同条2項)。ただし、Aが権限外の行為であることにつき悪意である場合には、Cには無過失が要求されない(同条2項2号ただし書)。
3 また、広告により会社に利得が生じている場合には、「法律上の原因」を欠くことから、Cは会社に対し不当利得の返還請求をすることができる(民法703条、704条)
以上

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