ノンテンダーFAとは
日本プロ野球の契約も世界も、より緻密にシビアになってきているようです。
パ・リーグの日本ハムは2021年11月16日、海外FA権を取得している西川遥輝外野手(29)、国内FA権を取得している秋吉亮投手(32)大田泰示外野手(31)と来年の契約を提示せず、保留手続きを行わないことを発表しました。
稲葉篤紀GM(49)は選手が取得した権利を尊重し、ノンテンダーとすることを選択したと説明しましたが、これはあくまでも球団側からの建前です。
3選手は自由契約となり、旧所属球団、海外を含めた他球団とも交渉が可能となるわけですが、実態は戦力外通告と変わらないからです。
戦力外通告とは、今有効な契約が期限を迎えても(通常毎年11月30日)、来年の契約を締結するつもりはありませんという球団側からの意思を予め選手側に通告しておくことが、選手側の選択権(第二の人生)を考慮する時間的猶予を与えることとして大切であるという建前で制度化されているものです。
ですので、戦力外通告とは、別段契約行為でもなんでもなく、あくまで、球団側が、来季の契約を結ぶつもりはありませんよ、ということを予め選手に伝えるだけであり、契約期間が満了すれば、そのまま自由契約か任意引退(球団が保有権を持ったまま、選手側の意思で引退)となります。
この点、本来なら戦力外にすべきではない選手であっても、海外FA権を取得している西川、国内FA権を取得している秋吉、大田と来年の契約を提示せず、保留手続きを行わないと発表することで、球団としては、ノンテンダーという状態にし、球団側としては契約の意思表示をあえてしないという、戦力外通告と同じような処置を取ることにしたことを内外に示したわけです。
もちろん、戦力外通告を受けた選手とは違って、FA(フリーエージェント)を取得している実績ある選手たちですから、そのまま自由契約となって引退するということではないと思いますが、それでも、通常は、FAになった選手の方から「他球団の評価も聞いてみたい」として強気で契約交渉に臨んでくることが予想されるところ、すでに戦績のピークを過ぎているのではないかと思われるFA資格選手に対して、球団側から、むしろ「他球団の評価を聞いてくれ」と一旦放出するのは、なかなか衝撃的なものです。
稲葉GMは、球団を通じて「3選手と来季以降のプレー環境について協議した結果、選手が取得した権利を尊重し、ノンテンダーとすることを選択しました」とコメントしており、「ノンテンダー」は主にメジャーで使用されている用語ですが、来季契約を結んでいない選手に対し、球団側が契約の意思表示をしないことという意味では、戦力外通告と何ら変わることはありません。
対象選手は、契約保留選手名簿から外れ自由契約となり、旧所属球団、海外を含めた他球団とも交渉が可能となる、と書けば結構な風にも見えますが、戦力外通告を受けて契約が終了した選手においても、それは同じことであり、自由契約となったという意味では何も変わりません。
むしろ、戦力外通告を受けるより、すでにもらっている高年俸や試合での使い方といった面では、新しく獲得する球団が二の足を踏むことも多いのではないでしょうか。
3選手とも実績があり、球団にとっては功労者にあたります。
もちろん、それなのでFA権が発生しているのですが、今回、球団側からこのような申し出がなされたというのは、FA権=選手にとってだけメリットがある、という時代ではなくなり、むしろ球団側としては言い切り時、であることがはからずも明らかになったということです。
西川選手は今季、盗塁王を獲得も打率2割3分3厘、3本塁打、35打点ですし、秋吉選手はプロ入り後ワーストの登板10試合で0勝0敗0セーブ、防御率2・70と精彩を欠いています。
大田選手は不振で、2度の登録抹消を味わい、いずれも不本意なシーズンに終わっています。
稲葉GMは「選手にとって制約のない状態で、海外を含めた移籍先を選択できることが重要と考えた結果です。ファイターズとの再契約の可能性を閉ざすものではありません」と説明しましたが、先に書いたとおり、球団側から、「他の球団の評価を聞いてくれ(そして今の契約がいかに高いか目を覚ましてくれ)」と言っているに等しいと思っています。
これこそ、球団の功労者である選手への、最大限に配慮なのかもしれません。
以上