民法第23問

2022年11月18日(金)

問題解説

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問題

Aは、B所有の茶器を所持していたところ、Cから100万円を借り受けるに当り、この茶器をCに質入れした。
1 この茶器は、AがBから預かっていたにすぎないのに、Bの承諾なしに、自己のものとしてCに入したものであった場合に、Cは質権の実行により、100万円の貸金債権の弁済を受けることができるか。次の3つの場合のそれぞれについて検討せよ。
(1) 現在、Cが茶器を所持している場合
(2) 質権の設定後にAの懇願を受けてCがこの茶器をAに引き渡し、現在は、Aがこれを所持している場合
(3) Cから茶器の引渡しを受けたAがこれを更にBに返還し、現在は、Bがこれを所持している場合
2 この茶器は、AがBに貸し付けた50万円の貸金債権の担保のためにBからAに質入れされたもので、これを、AがBの承諾なしに更にCに質入れしたものであった場合に、Cは、自己の質権の実行により、100万円の貸金債権の弁済を受けることができるか。
(旧司法試験 平成2年度 第2問)

解答

第1 小問1(1)について
1 AはBの承諾なしにBの茶器をCに入れしているが、Aには処分権がなく、Cは質権を取得できないのが原則である。
しかし、Cには即時取得の可能性がある。質権は占有を要する物であり(342条)192条産について行使する権利」といえるため、即時取得もあり得ると解すべきだからである。
2 したがって、Cが無過失で茶器の引渡しを受けた場合は、Cは質権を有効に取得し、100万円の弁済を受けることができると解する。
第2 小問1(2)について
1 それでは、質権設定後にCがAに茶器を引き渡したときはどうか。
345条は、「債権者は質権設定者に、自己に代わって質物の占有をさせることができない。」と定めている。 仮に、これを効力の存続要件であるとすると、設定者へ質物を返還した場合、 質権の効力が失われることになる。
しかし、設定者への質物返還は第三者への対抗要件を失わせるだけであって(352条)質権の効力自体は存続すると解すべきである。質権の本質は優先弁済的効力にあり、留置的作用は優先弁済的作用を促進する補助策にすぎないからである。
2 したがって、設定後に質物を任意に返還した場合は質権の効力が失われるものではないと解する。
よって、Cが買権を有効に取得している場合は、質権の実行により、100万円の弁済を受けることができる。
第3 小問1(3)について
1 小問(1)で論じたとおり、設定者への質物の返還は、第三者への対抗要件を失わせるものであるから、第三者たるBに対して質権を対抗することができない。
2 よって、Cは質権の実行により、100万円の弁済を受けることができない。
第4 小問2について
1 まず、AはBの承諾なしに茶器をCに買入れしているが、これは、いわゆる責任転質である(348条)。
この場合、 何が買入れされるのかについて争いがあるも、この点については、Aの把握する質物の交換価値そのものが買入れされるものと解する。AのBに対する債権が買入れされ、質権も随伴性によりその対象となるという見解もあるが、その場合は権利質を構成すればよいので妥当でない。
2 しかし、上記のように理解したところで、Aの把握する交換価値は50万円の範囲であるから、転質権者は原質権設定契約の範囲において、権利を行使することができると解すべきである。 また、原質権設定者の権利を害することはできないため、BのAに対する債務の弁済が到来していないと実行できない。
よって、BのAに対する債務の弁済期以降、Cは50万円の弁済を受けることができる。
3 ただし、Cが質権設定に際し、Aの把握する交換価値が50万円であることを善意無過失で知らなかった場合には、100万円の質権の即時取得もあり得る。
この場合には、質権を実行し, 100万円の弁済を受けることができ
なお、自説からはAのBに対する原債権を目的として質権を行使することは認められない。
以上

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