商法第23問
2022年11月19日(土)
問題解説
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問題
取締役会設置会社において、 次の事項のうち、(一)(二)を取締役会の権限とし、(三)(四)を株主総会の権限とすることができるかどうかについて論ぜよ。
(一)
事業の全部又は重要な一部の譲渡の決定
(二)
取締役の報酬の決定
(三)
代表取締役の選定
(四)
会社の業務執行の決定
(旧司法試験 昭和55年度 第1問 改題)
解答
第1 (一)及び(二)について
1 株主総会の法定権限を定款によって取締役会に委譲することは許されない(会社法(以下、法令名省略。)295条3項)。株主総会の法定権限は、重要事項であり、他の機関が決定することは好ましくないからである。
2 事業の全部又は重要な一部の譲渡の決定は、 株主総会の特別決議事項とされる(467条1項、309条2項11号)。
事業譲渡は、通常、譲渡会社の事業の再編を意味し、株主の重大な利害に関わるからである。
このような趣旨を踏まえても、(一)を取締役会の権限とすることはできないと解すべきである。
3 次に、取締役の報酬の決定であるが、これも株主総会の決議事項とされている (361条)。
本来、 取締役の報酬の決定は業務執行事項である。しかし、取締役に報酬の決定を任せた場合、お手盛りの危険性があり、会社の利益を確保できない。そこで、法はそのような弊害を防止するために、報酬額の決定を株主総会の決議事項としたのである。
仮に、取締役の報酬の決定を取締役会に一任すれば、そのような趣旨が骨抜きになる。
よって、(二)を無条件に取締役会の権限とすることはできない。
もっとも、 株主総会決議において、総額や上限額を決めた上で、配分を一任することは可能である。 そのような制限が付されていれば、 お手盛りの危険は防止できるからである。
第2 (三)及び(四)について
1 取締役会設置会社は、効率的な経営を行うために所有と経営の分離を徹底したのであるから、株主総会を通じて業務執行の意思決定を行う体制を採用していない。295条1項が、株主総会の権限を無制限に認めているのに対し、同条2項が、取締役会設置会社における株主総会の権限について、会社法に規定する事項及び定款で定めた事項に限られると 定めているのはその趣旨である。
もっとも、同条は、株主の企業所有権を制約したものではないから、株主が特に欲する場合には、権限を拡張しても差し支えない。同条2項も定款で定めた事項については、 株主総会の権限を認めている。
したがって、定款にあらかじめ規定をすれば、法定事項以外の事項をも総会の権限に属させることができる。ただし、株式会社の本質又は強行法規に反する場合にはこの限りではない。
3 まず(三)について検討する。
取締役会設置会社においては、代表取締役の選定権は取締役会にある(362条2項3号)。その趣旨は、取締役会による代表取締役の職務執行を十分に監督させる点にある。そうだとすれば、株主総会に代表取締役の選定権を与えると、取締役会の監督機能を害するとも考えられる。
しかし、取締役会の決議によるほか株主総会の決議によっても代表取締役を定めることができると定款で定める限り、代表取締役の選定に関する取締役会の権限が否定されるものではなく、取締役会の監督権限の実効性を失わせるとはいえない。
したがって、取締役会の決議によるほか株主総会の決議によっても代表取締役を定めることができると定める限り、そのような定款は、会社の本質強行法規に反しないものであり、有効であると解すべきであ る。
これに対して、 株主総会のみが代表取締役の選定権を有する定款は、取締役会の監督権限の実効性を失わせるものであるから、株式会社の本質又は強行法規に反し、違法無効であると解する。
3 次に(四)について検討する。
会社の業務執行の決定も取締役会決議事項である(362条2項1号)。 これを全て株主総会決議事項とするのであれば、取締役会の存在を無意味にするため、取締役会設置会社における会社の本質たる所有と経営の分離 (295条1項 326条1項等) に反し、 許されないと解すべきである。
したがって、(四)を全て株主総会の権限とすることは許されない。
以上