民法第20問

2022年10月28日(金)

問題解説

問題

1 2020年4月1日,Aは最新型のノートパソコン(以下「本件パソコン」という。)を持って電車に乗っていたところ、下車駅付近で眠ってしまった。Aの向かい 側に乗車していた中古パソコン販売業者のBは、Aが眠ったのを見て、本件パソコンを盗んだ。
翌日、新年セールを行ったBは、本件パソコンを30万円でCに売った。Cは本件パソコンにつきBが無権利であることや盗品であることを知らず、また知らないことにつき過失もなかった。
半年後、Aは本件パソコンがCの下にあることを知り、Cに対して返還を求めたが、Cはこれに応じなかった。そこで、AはCに対して、本件パソコンの返還及び不当利得を理由とした使用利益の支払を求め、直ちに訴えを提起した。
この請求が認められるかについて、Cの反論を踏まえつつ論ぜよ。
2 1の訴訟の第一部係属中、Cは、敗訴したときに、使用利益の支払額が膨らむこと を考慮し、本件パソコンを任意に返還した。
このような事情の下で、本作パソコン代金分の損失を回復したいと考えるCはAに対していかなる請求をすることができるか。

解答

第1 小問1について
1 本件パソコンの返還請求について
(1) Aは、所有権に基づいて、本作パソコンを占有する人に対して、本 作パソコンの返還を請求すると考えられる。これに対して、Cは本件パソコンを即時取得(192条)したと反論することが考えられる。
この点について、Cは取引行為によって平穏かつ公然と本作パソコンの占有を始めており、占有用時においてBが無権利者であることにつきCは善意かつ無過失であった。
したがって、即時取得は成立し、その反論は認められる。
(2) もっとも、Cの占有する本件パソコンはBがAから盗んだ物であり、盗品である。そこで、Aは193条に基づいて回復請求をすると再反論することが考えられる。
本件では、盗難の時から2年を経過しておらず、Aの請求は認められそうである。
(3) この請求に対して、Cは、194条に基づき、本作パソコンの代価である30万円をAがCに弁償しなければ返還請求に応じない、と再々反論することが考えられる。 この点について、Cは、本件パソコンと同種の中古パソコンを販売する商人Bから、本件パソコンが盗品であることについて善意無過失で買い受けた。 したがって、194条の要件を満たし、Cの反論は認められる。
(4) 以上のことから、Aの請求は当然には認められず、30万円の弁償と引換えに認められることとなる。
2 本件パソコンの使用等の支払請求について
(1) Aは不当利得に基づき本件パソコンの使用利益の支払を請求しているが(189条2項。190条)これに対して、Cは、194条に基づく代価の弁償がなされるまでは本作パソコンの使用収益権を有するとの反論をすることが考えられる。
そこで、194条の占有者が盗品等の使用収益権を有するか、明文なく、問題となる。
(2) まず、同請求が認められる2年間の動産の所有権については、所有権は原所有者にとどまると解すべきである。仮に、即時取得者が所有権を取得すると解すると、「回復」という法現象自体考え難いからである。
そうすると、その間の使用収益権は原所有者に帰属するとも思える。
しかし、194条の趣旨は、占有者と被害者等との保護の均衡を図る点にある。ここで、被害者等が対価を弁償して盗品等を回復することを諦めた場合には占有者は使用利益の返還義務を負うことはないに もかかわらず、回復請求がなされた場合には使用利の返還義務を負 うとするのでは、占有者の地位が不安定となり、194条の趣旨に反 する。
また、194条に基づき弁信される代価には利息が含まれないので あって、そうだとすれば、占有者の使用収益権を認めることが被害者と占有者の公平に適う。
したがって、194条の占有者は、盗品等の使用収益権を有すると いうべきであり、それは、194条の趣旨から特別な権能として認められたものであると解すべきである。
(3) 本問でも、Cは、194条に基づく代価の弁償がなされるまでは本パソコンの使用収益権を有するから、Cの上記反論が認められることになる。
以上から、Aの請求は認められない。
第2 問2について
1 Cは、Aに対し、194条に基づき、代価弁償の請求をすると考えられる。もっとも、本件では、Cは代価弁償の提供を受ける前に本件パソコンをAに任意に返還している。このような場合でも、なお代価弁済の提供を求められるか、条文上明らかでなく問題となる。
2 この点について、194条を素直に解釈すれば、取得者に抗弁権を認めただけのようにも読める。
しかし、前述のように、194条の趣旨は占有者と被害者等との保護の均衡を図る点にあるところ、仮に本件のように目的物を任意返還した場合に代価弁償請求ができないとすると、占有者にとって酷にすぎる。
また、代価弁償を単なる抗弁権とすると、被害者に任意に返還した者が代価の弁償を受けられず、かえっていつまでも返還を拒んだ者が弁償を受け得るという不均衡が生じる。 そこで、194条は抗弁のみならず、独立の請求権としての代価弁償を定めたものであると考える。そのため時取得者は、一度任意に目的物を被害者に交付した後でも、代価を弁償せよと請求し得る。
3 本問でも、CはAに対して、本作パソコンを任意に返還しているものの、30万円の代価を弁償せよと請求することができる。このような方 法で、Cは自己の損失を回復することができる。
以上

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