アフガニスタン副大統領が「暫定大統領」就任を宣言
アフガニスタン情勢はさらに混沌の一途に
アフガニスタン情勢は更に混沌としてきました。
追い出された形の旧政権のサーレハ第一副大統領(タジク人)が「暫定大統領」を宣言したのです。
アフガニスタンは、たしかにタリバンによって制圧されたのですが、もともとアフガニスタンは(も)多民族国家であり、タリバンの多くを占めるパシュトゥーン人が第一勢力、タジク人が第二勢力、その次にハザラ人、ウズベク人と続き限りない少数民族が、石油も水も出ないアフガニスタン中にうごめいています。
ですが、明らかに絶対多数を占めるパシュトゥーン人がトップに来ない政治体制は安定しません。その中で、特に神政政治的色合いと純粋主義にすぎるタリバンに対する嫌悪感も、特にパシュトゥーン人以外の民族には色濃く残っています。
ということで、今回のこのタジク人であるサーレハ第一副大統領による「暫定大統領」宣言は、旧アフガニスタンの憲法上の権威とかそういうのはむしろどうでもよい建前であって、本音は、タリバンに対する抵抗勢力の結集を呼びかけたもの、という見方をすべきです。タジク人だけではなく、他のパシュトゥーン人に敵対する、距離を置くすべてのアフガニスタンの勢力に、反パシュトゥーン、反タリバンで立ち上がろうぜ、という呼びかけです。
このように、ひとつの国に、複数の民族が存在し、複数の言語が話されるといった状況は、絶え間ない内戦やその結果としての国の分裂を引き起こすので、国際社会的には非常に面倒なことになります。
つまり、昔ユーゴスラヴィアという国があり、実に1929年から2003年まで、ソヴィェト型社会主義体制という鉄の鎖でつなぎとめていましたが、その国際的位置から『七つの国境、六つの共和国、五つの民族、四つの言語、三つの宗教、二つの文字、一つの国家』と形容され、今は6つの独立国に分離独立しつつも、特にその中の最大国家であるセルビアにおいては、域内少数民族であるコソボ人の独立問題を抱えているという、非常に複雑で(勉強しておかなければならない)事情があるのです。
このような、状況をきちんと踏まえて、長期的にこのアフガニスタンという土地に生きる人達の民族自決の建前に則り、国際社会は見守らなければなりません。
先祖返りの国家運営は絶対にうまくいかない
先祖返りの国家運営は絶対にうまくいきません。
軍事的にはアフガニスタン全土を制圧したタリバンですが、タリバンは極めて神権主義的な政治を行うので、時代が数百年繰り下がった感覚です。いわば、鎌倉幕府を倒した後に後醍醐天皇が建武の新政(1333年~)と称して、平安京の摂関政治後時代の延喜・天暦の治(醍醐天皇と村上天皇の親政、901年~)を模した政治を行おうとして2年弱で崩壊した、というのに似ていると思います。こちらも400年くらいさかのぼった考え方でやろうとして即行き詰まった事例ですが、タリバンにおける国家統治が本当にできるのか、については大いに否定的な見解を述べておきます。
本来なら、国際社会や旧アフガニスタン勢力は、タリバンに対して「統治安定化の観点から、国際社会向けの建前も含めてタジク人、ハザラ人、ウズベク人を政権に取り込むように」と申告すべきなのでしょうが、そのようなことこそ妥協であり唾棄すべきものと却下するタリバンの神政政治の指導者には、全く通じないでしょう。
ということで、今後の残念ながらの予想としては、アフガニスタンの一部にまたまた「タジク人等支配地域」という二重国家間が出てきそうな感じです。そうして、このタジク人支配組織に、アメリカや欧州諸国が事実上の支援を行い、タリバン(パシュトゥーン人)に肩入れする中国、タジク人等少数民族を公然と支援するアメリカや欧州諸国という泥沼構図が予想されます。
ものすごく厄介で、困難な道しか見えてきません。まったく、多民族国家の融和は世界中何処でも課題なのですが、そうした地域をまたひとつ地球上に作ってしまった人間の業というやつでしょうか。石油も資源もなく、農産物もできず、ケシの花くらいしか咲かない、人間だけは結構多い、こうした国アフガニスタンが、武器を使った内戦から救い出される日がやって来ることを祈っていますが、それはなかなか難しいように思います。
さて、アフガニスタン中部に住むハザラ人はモンゴロイドで、我々と似た顔をした人達、蒙古斑もあります。
こちらは、モンゴル帝国によるアフガニスタン征服の際の末裔の方々とされます。
ハザラとはペルシャ語で「(数字の)千」であり、一説にはモンゴル帝国では軍の体系が「千人隊(ミンガン)」をベースに編成されていたことである、とのことです。
今の日本列島に住む皆さんも、自分には関係のないことであると思わず、自らのご先祖様がこのような地に行き着き土着し、必死に生きていることを感じてもらえれば幸いです。
アフガニスタン情勢はますます混沌としてきました。残念ながら、妙案は見つかりませんが、遠い国のことだと意識の外にやるのではなく、考え続けることが重要だと思います。
以上