商法第17問

2022年10月10日(月)

問題解説

問題

次の小問1および2の両方に解答しなさい。
小問1 甲社は、不動産の売買・賃貸の仲介を主たる事業とする株式会社であり、平成18年6月1日に設立の登記がされている。同社の定款には、株券を発行する旨の規定があり、株式の譲渡については譲渡自由という定めも譲渡を制限する旨の定めも置かれていない。また、取締役会や監査役を設置する旨の定款の定めがあるが、監査役会や会計監査人を設置する旨の定めは置かれていない。甲社には現在、株主名簿上の株主が9名存在する。発行済株式総数は1200株であり、その中には株主が議決権を有しない株式は存在しない。平成19年1月10日に、甲社の株主であるAが所有する株式100株をすべて非株主であるBに譲渡した(以下、「本件株式譲渡」という)。翌11日に、BはAから交付を受けた甲社の株券100株を持参してAとともに甲社を訪問し、株主名簿の名義を自己に書き換えるように求めた。しかし、甲社の取締役会は、Aが甲社取締役に対して批判的な言動を繰り返していたことから、Bもまた会社にとって敵対的な人物に違いないと判断して、1月15日にBに内容証明郵便を発送し、その中で本件株式譲渡を認めないこと、株主名簿の書き換えを行わないことを伝えた。なお、この内容証明郵便は、同日にB宅に配達された。
Bは甲社に対して、株主名簿の書き換えを請求し、甲社の株主であることを主張することができるか。

小問2 上記の小問1の事実関係の下で、甲社は平成19年6月28日に第1回定時株主総会を開催することになった。甲社は同年6月4日に株主名簿上の株主に対して招集通知を発送したが、本件株式譲渡で譲渡の対象となった株式に関しては、A・Bいずれに対しても招集通知を発送しなかった。6月28日に予定通り開催された株主総会では、会社側が用意した次の3つの議案が審議された。すなわち、会社設立から平成19年3月31日までの第1期の事業年度について貸借対照表その他の計算書類を承認する第1号議案、株主に持株1株につき500円の剰余金配当を行う旨の第2号議案、C・D・Eの3名を取締役に再任する第3号議案である。いずれの議案も、Aを除く株主名簿上の株主8名のうち7名(うち1名は他の株主に委任状を交付して、議決権の代理行使を依頼したものである)(7名の持株数の合計は1000株)が決議に参加し、うち株主3名(持株数の合計は600株)が賛成した決議によって、可決・成立した。 Bはこれらの株主総会の決議の効力を争うことができるか。
(中央大学法科大学院 平成20年度)

解答

第1 小問1
株主たる地位の移転は株主名簿の名義書換えをしなければ会社に対抗できない(会社法(以下、法令名省略。)130条1項2項、確定的効カ)。 したがって、Aから株式を譲り受けたBは名義書換えをしなければ、甲社に対して甲社の株主であることを主張できないのが原則である。
2(1) ここで、甲社の取締役会は「本件株式譲渡を認めない」としているが、甲社は譲渡制限する旨の定めがない会社であるから、甲社の株式の譲渡は自由である(127条)。したがって、かかる決議には何の法的効果もない。
(2) また、甲社は、Bが会社にとって敵対的な人物に違いないという理由をもって名義書換えを拒絶している。甲社は株券発行会社であるか ら、株券を提示することによって単独で名義書換えが可能(133条2項、施行規則22条2項1号)である。そのため、このような理由による名義書換えの拒絶は不当な拒絶というべきである。
3 そして、130条1項の趣旨が、会社と株主との関係を集団的・一義的に処理する会社の事務処理上の便宜を図る点にあること、会社が自ら不当に義務を懈怠しておきながら、名簿不記載の不利益を実質上の株主(譲受人)に負わせるのは信義則(民法1条2項)に反することにみれば、名義書換えを不当に拒絶された実質上の株主は、名義書換えなくして会社に対して株主たる地位を主張でき、株主としての権利を行使できると解すべきである。
4 よって、Bは甲社に対して、改めて株主名簿の書き換えを請求し、株主であることを主張することができる。
第2 小問2
1 Bは,株主総会決議取消しの訴え(831条)を提起して、これらの株主総会決議の効力を争うことが考えられる。
2 Bは,株主名簿に登載された「株主」ではないものの、小問1で検討したように、本問では甲社はBの名義書換えを不当拒絶しているため、Bを株主として取り扱わなければならなかった。
したがって、Bは「株主」に当たり、決議の日から3か月以内であれば株主総会決議取消しの訴えを提起することができる(831条1項)。
3 次に、取消事由の有無について検討するに、株主総会を招集するためには、株主に対して招集通知を発しなければならない(299条1項)。上記のように、甲社はBを株主として取り扱わなければならないから、Bに対して招集通知を発することなくなされた第1号から第3号議案についての株主総会決議は、いずれについても「招集の手続」に「法令」「違反」があるといえる(831条1項1号)。
4 もっとも、決議取消しの訴えの提起があり、取消事由が認められた場合でも、裁判所は、①その「違反する事実が重大でな」く、かつ②「決議に影響を及ぼさない」ものであると認められるときは、取消しの請求を棄却することができる(831条2項)。これを本間についてみると、本件の3つの議題は全て普通決議で足りる。そうすると、Bが加わったところで、過半数は確保されており、②「決議に影響を及ぼさない」とも思える。しかし、Bは総発行株式数の12分の1を有する株主であり、相当数の株式を保有している。そうすると、少なくともBに招集通知が漏れたことは、①違反する事実が重大でないとはいえない。
したがって、要件を検討するまでもなく、裁判所は裁量棄却をすることができない。
以上

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